コラム

ピエール=ロラン・エマール(Pierre-Laurent Aimard)のしなやかなピアノでメシアン“鳥のカタログ”全曲を聴ける特別な一日

〈ピエール=ロラン・エマール ピアノリサイタル メシアン:鳥のカタログ(全曲)〉

©Julia Wesely

エマールの演奏で“鳥のカタログ”を一度に全曲聴ける特別な一日

 〈エマールのメシアン〉――これは〈ルービンシュタインのショパン〉や〈グールドのバッハ〉に匹敵するような、時代の象徴といえる組み合わせになっているのではないか。もし、2017年12月に東京オペラシティで、エマールの弾くメシアンの“幼子イエスに注ぐ20のまなざし”を耳にした人なら、この大袈裟に響きがちな喩えにも同意してくれるはずだ。

 それは、巨大な伽藍に繊細な彫刻をほどこしたような音楽ながら、決して建築的ではなく、じつにエモーショナルな体験として身に迫った。その陰影をたたえた音色からは、神の気配や神秘の存在が立ち上ってきたのだった。

 今年11月、エマールは“鳥のカタログ”全曲を弾く。メシアンのトレード・マークでもある鳥の声をテーマにした全13曲、2時間半を超える大作中の大作である。

 バルトークが民謡を採集したように、メシアンは世界各地の鳥の鳴き声を集めた。音楽の行き詰まりを覚えた20世紀のヨーロッパの作曲家が、音楽の源泉を外部へ求めようとする一つの試みだった。

 鳥の鳴き声を忠実に五線譜へ起こし、和音をほどこしたり、ときにはテンポを変化させた(テンポを遅くしないと、人間の耳にはその繊細な差異が判別できないのだ)。その旋律は、シェーンベルクの音列をも思わせる、抽象的な印象をもたらすこともあるだろう。

 ただし、計算の上で作られたシェーンベルクの音列とは違い、メシアンが取り入れたものは自然環境に由来している。つまり、その響きから、自然や生物の脈動を感じ取ることが、鑑賞にあたっての最大のポイントになる。

 “鳥のカタログ”には70種類以上の鳥が登場する。その鳴き声をベースに、その環境をまるごと描く。時間に応じて鳥は少しずつ鳴き声を変化させていく。波や池、崖、虫の声といった環境を表わす音をふんだんに差し挟みつつ。

 第3曲“イソヒヨドリ”での、イソヒヨドリとコバシカンムリヒバリとの鳴き声の応酬は、エキゾティックなダンスのように聴こえる。第7曲“ヨーロッパヨシキリ”は、池の周りで展開する24時間のサウンド・スケープを30分かけて描く。

 とりわけ、日の出と日の入りといった、光線の変化をメシアンは微細に捉える。しなやかなタッチで、エマールはその変化を音色豊かに弾く。そして、そこからは、時間の推移、光や温度を含めた、自然そのものの気配がリアルな実感として立ち上ってくるはずだ。

 


LIVE INFORMATION
ピエール=ロラン・エマール ピアノリサイタル
メシアン:鳥のカタログ(全曲)

2022年11月3日(木・祝)東京・初台 東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル
開演:15:00(18:15終演予定)
出演:ピエール=ロラン・エマール(ピアノ)
曲目:メシアン:鳥のカタログ(1956~58)(全曲)
https://www.operacity.jp/concert/calendar/detail.php?id=15027

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