社会の変化とプライヴェートの転機に立ち会った2年ぶりのニュー・アルバム――多彩なサウンドと多様な感情が咲き誇った花束のような傑作を語る!

誰かにとっての花になれば

 「家にいる時間が増えると毎日同じ部屋にいて同じ風景じゃないですか。そうなったときに何か色が欲しいなって思ったのがきっかけで、お花屋さんに行く機会が増えて、季節のお花を見えるところに飾るようになって。花があるだけで生活に色が出るというか、すごく癒されることに気付いたんですね、この歳になってやっと(笑)。もちろん昔から誕生日とかでお花をいただいたら持ち帰って飾ってたんですけど、その頃は綺麗だなって思うぐらいで。実家を出て生活を始めて、お花があるとこんなに華やぐものなんだって知ったというか。なので、私のアルバムもそういうものになればいいなと思ってflowerっていう単語が使いたかったんです。集まれば色とりどりの花束になるんだけど、1曲でも誰かにとっての花になれば、それが一輪でも花束でも、聴く人が自由に感じてくれればいいよっていう意味を込めて『flower(s)』にしました」。

西恵利香 『flower(s)』 para de casa(2021)

 通算3作目となった2年ぶりのアルバム『flower(s)』について西恵利香はこう語る。ヴォーカリストとしての魅力のみならず、作品を重ねるごとに音像やアレンジ面でも自身の志向/嗜好を反映し、アーティストとして深みを増してきた彼女だが、今作では作詞に加え、ほぼすべての作曲にも関与。2017年の初作『soiree』、2019年の2作目『Love Me』と2年おきにアルバムを届けるサイクルこそ結果的には保たれたものの、新作のキックオフとして〈新生活〉を歌ったMikeneko Homeless制作の“1LDK”を昨年3月に配信して以降、社会状況の変化は創作にも大きく作用した。おかもとえみを招き、馴染みのChocoholicと共作した昨年9月の“Hi-Light”はステイホーム期間中の制作で苦心したという。

 「その前の年からえみちゃんと一緒にやる話はしていて、〈初夏に向けて爽やかなラヴソングをやりたいね〉みたいな感じだったんですけど、結局は9月リリースになって。歌詞のイメージは変わってないんですけど、環境が変わりすぎてしまったのもあって凄く時間がかかりました。えみちゃんやChocoちゃんとの打ち合わせもリモートでしかできない状態になってしまって、それに身体が慣れなくて。歌詞ってどうやって書いてたっけっていう状態になってしまって、“Hi-Light”っていう言葉を見つけるまで時間がかかっちゃったっていうのはありますね。いつもはいろんな人に会って、そこで聞いた話に自分の体験も交えて書くことが多かったので、人と会えなかった時期は携帯でマンガを読んだり、小説とか映画からインスピレーションをもらって作った曲も多いですね。アルバムのオープニング“アメリ”も前に観た映画をたまたま観直したのがきっかけで作った曲ですし」。

 3曲目の先行曲は今年1月の“STAY”。前作で“5AM”を手掛けたShin Sakiuraと組んでアダルトな風景を描いている。

 「ここ数年ハマってる韓国のR&Bに影響をかなり受けて作った曲で、こういう切ないR&Bには大人の恋愛が合うんじゃないかなと思って歌詞を書き進めていきました。メロも自分で付けてるので、燻ってる感じというか、ぐちゃぐちゃした気持ちをメロディーとか言葉の詰め方でも出せたかなと思います。私としては報われない男女の関係を書いたんですけど、“STAY”を配信した後にKick a Showくんに入ってもらったリミックスを作って、彼のパートは相手の男性の目線で好きに書いてもらったら男性側も同じ気持ちだったっていうリリックを返してくれた時に“STAY”の女性が報われたような気がしました。ぜひリミックスも含めて聴いてもらうとひとつの物語が出来上がるんじゃないかなと思ってます」。

 さらに5月に配信した2ステップ調の“PINK”は、前作収録の“本音”に続くPARKGOLFとの手合わせ。アルバムにおいても例外的にアッパーなダンス・トラックで光を放っている。

 「“PINK”は“本音”と一緒にPARKGOLFさんから提案していただいたので、『Love Me』の時からデモがあったんです。ただ、〈この2ステップ、いまの私にはまだ早くない?〉と思って温めさせてもらってたのをようやく出せた感じですね。5月にえみちゃんとツーマンで“Hi-Light”を初披露するっていう大事な日があったので、久しぶりの有観客でみんなに会えるワクワクとか、ライヴハウスで大きい音を出せる/聴けるっていう昂揚感をお客さんと一緒に楽しみたくてリリースしました。“PINK”みたいなアッパーな曲は『flower(s)』の中にもないし、もしかしたらこれからもないんじゃないかな。それくらいハッピーで楽しい曲になったと思います」。