ビリー・シーン、リッチー・コッツェン、マイク・ポートノイ――説明不要で唯一無二な三匹の猛犬たちが帰ってきた。熟成されたミュージシャンシップの美酒に酔いしれよう!

 「リスナーには俺たちが経験していることを体験できるような形で夢中になってもらえたらいいね。ワイナリー・ドッグスのアルバムは俺たちの人生や生き方のスナップショットなんだ。俺たち自身にとって何が大切で何がそうじゃないかが反映されている」(ビリー・シーン、ベース/ヴォーカル)。

 ワイナリー・ドッグスといえば、それぞれがメインを張れる人気ミュージシャンの集合体である。MR. BIGなどでお馴染みのベース・ヒーローたるビリー・シーン、そのMR. BIGにも一時在籍していた幅広い音楽性の持ち主であるリッチー・コッツェン(ギター/ヴォーカル)、そしてドリーム・シアターの初代ドラマーであったマイク・ポートノイ(ドラムス/ヴォーカル)。そんな3人が集まって2012年に結成されたこのバンドは翌年に早速アルバム・デビュー。クリームやジミ・ヘンドリックス、レッド・ツェッペリン、グランド・ファンク・レイルロードといった巨人たちを影響源に挙げ、3人が普段の活動時とはまた異なる伝統的なハード・ロックを聴かせる姿は新鮮だっただろう。が、2016年の2作目『Hot Streak』とそれに伴うツアー、そしてライヴ盤の発表を以てトリオ活動には区切りがつき、3人は各々の道へと戻っていった。

 シーンとポートノイは2017年にデレク・シェリニアンらとサンズ・オブ・アポロを結成し、順調にアルバムを発表。それに加えて昨年のシーンは、ブラッド・ギルス(ナイト・レンジャー)らと結成した新たなスーパー・グループ=スキルズでもデビュー作を放ち、MR. BIG以前に組んでいたタラスで40年ぶりのオリジナル作『1985』を発表したのも記憶に新しい。また、こちらも複数のバンドに在籍するポートノイも、ニール・モース・バンドやそのモースらと組んだプログレ界のスーパー・バンド=トランスアトランティックでアルバムを出すなど、相当なハイペースで作品を重ねていた。一方のコッツェンはソロ作を発表する傍ら、エイドリアン・スミス(アイアン・メイデン)と組んだプロジェクト=スミス/コッツェンでも活動するなど、3人それぞれが実り多い数年を過ごしていたのは言うまでもない。ただ、その間にも熟成されたヴィジョンは3人のワイナリーで共有されていたのだ。再始動のきっかけはトリオが約2年ぶりに顔を揃えた2019年のUSツアーにまで遡れるという。

 「あのちょっとしたツアーは楽しかったね。俺たちの情熱にまた火を点けてくれた。サード・アルバムが間違いなく選択肢に入ったと確信した時でもあった」(ポートノイ)。

THE WINERY DOGS 『III』 Three Dog Music/ソニー(2023)

 そうしてこのたび完成したのが待望の3作目『III』だ。活気に溢れた3人の再会劇は「初っ端から白熱した曲だよね。アルバム屈指の猛烈な曲だ」(ポートノイ)と語るスモーキーなハード・ロックの先行カット“Xanadu”で力強く幕を開ける。今回の曲作りやレコーディングは南カリフォルニアにあるコッツェンの自宅スタジオで進められていたそうで、状況を整えた3人が何時間も顔を突き合わせてセッションを繰り返し、全10曲が丹念に編み上げられていった。

 「俺たちの目的は、真の意味で心地良いリスニング経験をしてもらうことだ。俺たちの音楽は生身の人間が全員ひとつの部屋に集まって、生身の楽器を演奏することによって生まれている。人工的なものは何もないんだ」(コッツェン)。

 ブルースやジャズ、プログレなどのフィーリングは垣間見えつつ、収録曲は一貫してストレートにエネルギッシュでポジティヴだ。メロディーや詞は優れたソングライターでもあるコッツェンが多くを担うものの、互いの着想を受け入れる余裕と経験則を持ち合わせたヴェテランらしさが作品に良い空気を吹き込んだと言えるかもしれない。例えば、もともと〈I’m falling and breaking〉というサビだった“Breakthrough”は、ポートノイの提案で〈I’m having a breakthrough〉とフレーズを変えたことで、開放的な自己実現を謳う力強い一曲に仕上がった。

 「ひとつの小さな変更が、行き詰まっていたその曲全体に突破口を見い出してくれることがある。ひとつの然るべきフレーズを然るべき時に然るべき箇所で変えれば、良い曲をA+級の曲に変えることができるんだ」(シーン)。

 白熱のラストを飾る“The Red Wine”まで良い楽曲が50分強を埋め尽くした『III』。技量と経験を持ち合わせたヴェテランがリフレッシュを経て生み出した上質なワインは、歳を重ねるごとにさらに素晴らしい響きを生み出していくのかもしれない。

 「ワイナリー・ドッグスの強みはまず何よりも曲がすべてということだ。その次に来るのが、言うまでもなく重要なミュージシャンシップ。このバンドの何が素晴らしいかって、ひとつひとつが記憶に残る、キャッチーで歌える楽曲で、なおかつ3つのパートすべてに素晴らしいミュージシャンシップがあるということなんだ。3つのリングで同時に演技が行われているサーカスみたいなものだよ。誰を観たり聴いたりしていても必ず楽しめるんだ」(ポートノイ)。

ワイナリー・ドッグズの過去作品を紹介。
左から、2013年作『The Winery Dogs』、2016年作『Hot Streak』、2017年のライヴ盤『Dog Years: Live In Santiago & Beyond 2013-2016』(すべてThree Dog/Loud & Proud)

左から、MR. BIGの2017年作『Defying Gravity』、スキルズの2022年作『Different Worlds』(共にFrontiers)、タラスの2022年作『1985』(Metal Blade)、スミス/コッツェンの2021年作『Smith/Kotzen』、同2022年作『Better Days... And Nights』(共にBMG)、サンズ・オブ・アポロの2020年作『MMXX』、ニール・モース・バンドの2021年作『Innocence & Danger』、トランスアトランティックの2021年作『The Absolute Universe: The Breath Of Life』(すべてInside Out)