Photo by Mark Maryanovich

メタラーにして本職ジャズピアニスト、西山瞳さんによるメタル連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。今回は、マイク・ポートノイの復帰が話題になっているドリーム・シアターのニューアルバム『Parasomnia』について。結成40周年を迎えたプログレメタルのベテラン、その魅力に西山さんならではの視点で迫ります。 *Mikiki編集部

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DREAM THEATER 『Parasomnia』 Inside Out/ソニー(2025)

 

凄い作品がきました。

ドリーム・シアターの新作、『Parasomnia』です。

結成40周年にして、ドラマー、マイク・ポートノイの復帰作。

2月7日に発売ということで、メタルファンの皆さんはもうチェック済みかと思いますが、私はこの記事を書くために少し前から聴かせてもらっていたにもかかわらず、何を書こうか思考がまとまらなくて全然書けませんでした。

正直、こんな作品の音楽解析や解説をするなんて野暮の極みで、どこで拍子が変わったとか、過去の何を踏まえているとか、別に要らないと思うんです。

技術も音楽も成熟しきっていて、しかもポートノイという巨大熱源も再合流して、いやもう、そういう話は飛び越えてしまっている。技術や音楽の枝葉末節はただの手段であって、そこを突っ込んで採取することにはあまり意味を見出せず、もっと大きなビジョンについて、また複雑なテクニックを習得した先に描き出すものについて、ずっと思考を巡らせていました。

 

人はなぜ、難しい音楽を好んで聴くのだろう〉と、そんなことも考えていました。

高校の頃、なぜあんなに夢中でドリーム・シアターを聴いたのだろうと考えると、少なくとも私は、〈今、めっちゃ難しいものを聴いてるんだぜ!〉という、青い虚栄心みたいなものも駆動していたことは間違いありません。

〈プログレメタル〉、なんだか言葉の響きが格好良いじゃないですか。他の同級生とは違うんだぜって。普通の曲のように、コーラスを1番2番と繰り返さず、どんどん違う展開になる。イントロが異様に長い。それが格好良いんだぜって。

そして、調子に乗って本物のプログレに手を出し、キング・クリムゾン『クリムゾン・キングの宮殿』やイエスの『危機』なんかを聴くと、ガサガサしすぎて、なんだこれ?と、聴けなかったんですよ。何故そこでその時ラッシュを聴かなかったのか、ラッシュを聴いていたら人生が変わっていたかも!?

(マイク・ポートノイから辿るべきは、影響を受けたと公言しているカナダのプログレッシブロックバンド、ラッシュ。)

それはさておき、プログレクラシックを聴いて、〈私が好きだったのは、音楽の展開の難しさより重量感だったのかも〉とまたドリーム・シアターに戻り、その後、リキッド・テンション・エクスペリメントを聴き始めるんです。うーん、青春。

 

世の中には、〈難しい音楽が好き〉という人が、一定数いますね。

難しければ難しい方がいい。

音数が多いとか、滅茶苦茶速いというのとは、また違うんです。

拍子や調性が次々変わるのが良くて、ギミックが多いことにエクスタシーを感じる人たち。

私もそういう難しい音楽に振り回されたい人間の一人でもありますが、最近思うのは、ギミックが多いから好きなのではなくて、サスペンスが持続するから良いのだと、未知の音楽が次々やってくるぞ!という期待が持続するから、難しい音楽を聴きたいのかもしれない。

ギミックそのものではなくて、サスペンスと期待という、アドレナリン中毒なんですね。