〈メタル・クイーン〉が放つ、これまでとは別次元のオーラ

浜田麻里がオリコン初登場11位を獲得した前作『Mission』から、約2年7か月ぶりになる26thアルバム『Gracia』を完成させた。今年はデビュー35周年という大きな節目を迎え、彼女自身もさらにギアを上げていきたいという意志の表れなのかもしれない。今作は移籍第一弾作ということもあり、新たな環境に身を置き、まだ見ぬ高みを目指して突き進みたい!という気迫が音源からビシビシと伝わってくる。

浜田麻里 Gracia Victor Entertainment(2018)

振り返れば、前作『Mission』は非常に素晴しい出来映えだった。しかし、今作を聴いた後だと、前作もハードな側面はあったものの、メロディアスな作風だったなという感想を抱いた。というのも、今作は〈メタル・クイーン〉の称号に相応しく、自らその十字架をしっかりと背負い、仁王立ちしているような彼女の姿が脳裏に浮かんでくる。何だか、凛とした力強さに漲っているのだ。まるで限界ギリギリまで自身の体をいじめ抜いたアスリートのごときストイックな佇まいは、これまでとは別次元のオーラを放っている。それは神々しい歌声、と言っても過言ではない。

今作に先駆ける形でオープニングを飾るリード曲“Black Rain”のミュージック・ヴィデオが期間限定で公開された(※初回限定盤にはそのMVとそのメイキング・シーンを収録したDVDが付属)。MV自体は2003年7月にリリースされたシングル曲“Ash And Blur”以来、15年ぶりに制作された。そこにも並々ならぬ意気込みが感じられるし、ファンにはたまらない映像作品と言っていい。曲名に倣い、黒い雨と燃え盛る炎とのコントラストを描いた映像も楽曲の迫力を倍増させてくれる。曲調的にもスピード感のあるヘヴィ・メタル・ナンバーだが、それに一歩も引くことなく、浜田麻里は空を切り裂く超絶ハイトーン・ボイスで高らかに歌い上げている。そう、今作は彼女のハイトーンが随所で炸裂し、それが楽曲の興奮、緊張感、テンションを高める効果を上げているのだ。〈超えてゆけ 永遠も さざめきの追憶も 振り切って 光よ輝きよ 頭上の雲壁を切り裂く自由を〉の歌詞にある通り、すべてを振り切ったようなエモーションの爆発ぶりにゾクゾクせずにはいられない。

『Aestetica』、『Legenda』、『Mission』とメタル三部作として発表してきた彼女だが、今作はその決定盤と表現したくなる強靭かつスリリングな表情を浮かべた楽曲が揃った。ハード・ロック/ヘヴィ・メタル好きのリスナーのツボをこれでもかと突きつつ、作品全体を通してはヴァラエティに富む曲調を揃えているため、多くの人にアピールしうる懐の深さをも兼ね備えている。もっと踏み込んで言えば、ヘヴィなものはよりヘヴィに、メロディアスなものはよりメロディアスに、と緩急と剛柔を巧みに使い分けた楽曲がずらりと並んだ。

それには豪華極まりない参加ミュージシャンの存在も大きいだろう。ギターにマイケル・ランドウ、ポール・ギルバート、クリス・インペリテリ、高崎晃、マイケル・ロメオ、クリス・ブロデリック、増崎孝司。ベースにビリー・シーン、リーランド・スクラー、フィリップ・バイノー。ドラムにグレッグ・ビソネット、マルコ・ミネマン。そしてキーボードにジェフ・ボーヴァ、マイケル・ロメオ、デレク・シェリニアン、増田隆宣、中尾昌志と錚々たるラインナップだ。今作の中でも“Disruptor”は熾烈な演奏バトルを繰り広げ、プログレッシヴ・メタルに通じる緊張感溢れるプレイを堪能できる。と思ったら、この曲には元DREAM THEATERのデレクが参加しているではないか。この辺の適材適所の人選にはメタル・ファンも唸ることだろう。

前半の怒濤の攻めを潜り抜け、中盤にはミドル・テンポの楽曲が配置され、アコギを用いた切なくも明るいポップ・チューン“Lost”なども素晴らしい。また、後半には速弾きの名手であるクリス・インペリテリを迎えた“Dark Triad”が飛び出したりと、作品一枚を通して存分に楽しめる内容になっている。名プレイヤーの演奏を追い風に、浜田麻里は水を得た魚のように歌い上げ、自由を謳歌した伸び伸びとしたヴォーカルを遺憾なく発揮している。純然としたメタル・アルバムとしても、普遍的なロック・アルバムとしても、聴く者をグイグイと引っ張ってくれる無尽蔵のエネルギーが今作には詰まっている。今がもっとも脂が乗っているのではないかと思わせられる傑作だ。 

 

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