少年時代の記憶から愛と団結の精神を導いた上質なアルバムが誕生……親密なファミリーと作り上げた最高のクリスマス・プレゼントがここに!

 現代ジャズ・シーンにおいて独自の道を歩み、今年は前年に録音のライヴ盤『New York 2020』も形にしているホセ・ジェイムズが、キャリア初のクリスマス・アルバム『Merry Christmas From Jose James』を届けてくれた。現在はアムステルダムに住まう彼だが、昨年末にNYでアーロン・パークスと行った配信ライヴが制作のきっかけになったのだという。

 今回のアルバムを構築するにあたってインスピレーションとなったのは、故郷で過ごした少年時代のクリスマスだったそうだ。ホセが育ったのは雪の多いミネソタ州ミネアポリス。決して裕福ではない暮らしのなか、母親が工夫してツリーやオーナメントで華やかに彩るクリスマスの記憶は、彼にとって家族の大切さや故郷の暮らしを象徴する原風景なのだろう。そんなこともあってか、今回のアルバムは親密な〈ファミリー〉たちとひとつの部屋に集まって録音されたそうだ。

 集まったミュージシャンは、全曲のアレンジも手掛けたベン・ウィリアムス(ベース)をはじめ、ジャリス・ヨークリー(ドラムス)、アーロン・パークス(ピアノ)という馴染みの顔ぶれ。特に近年は多様な制作スタイルで野心的なアルバム作りに挑んでいる印象の強いホセだが、こうしたアコースティックな編成になると持ち前のクルーナー的な側面が前に出てきて、とても優雅に感じられる。オープニングを飾る“Christmas In New York”はそんなジェントルな魅力を全開にするスタンダード風味のナンバーながら、これは彼と妻のターリが数年前に共作して温めていたというオリジナルのナンバー。まさにこうした編成での録音を待ち望んでいたかのような楽曲だと言えるのではないだろうか。

 それに続く“This Christmas”はダニー・ハサウェイによるソウル・クリスマスの定番で、ここではターリと愛娘のアナイスが参加、さらにベンも声を交えてファミリーな雰囲気を倍加している。以降は“The Christmas Song”や“I’ve Got My Love To Keep Me Warm”“The Christmas Waltz”“Have Yourself A Merry Little Christmas”“Let It Snow! Let It Snow! Let It Snow!”など数多くの先人たちが歌ってきたトラディショナルなクリスマス・ソングが並び、プレイヤー各人の手捌きも手伝ってリラックスした成熟味にじっくり酔わされるはずだ。

 後半にはホセとターリが共作した2つめのオリジナル“Christmas Day”も披露され、こちらはスティーヴィー・ワンダーを思わせるアーシーな歌唱も堪能できるナンバーだ。さらにジョン・コルトレーンに捧げたスタンダードの“My Favorite Things”ではマーカス・ストリックランド(サックス)が駆けつけてトリビュートの意図を深めている。そして素晴らしい時間にリボンをかけるのはアーロンのピアノだけをバックに歌唱される“White Christmas”。そのようにしてラッピングされた上品で濃密な贈り物はきっと何より素晴らしいものだろう。この『Merry Christmas From Jose James』をプレイすれば、そこには穏やかで美しい時間が流れている。