ターリはNY出身のシンガー・ソングライター。ホセ・ジェイムズが立ち上げたレインボー・ブロンドからファースト・アルバム『I Am Here』を発表したばかりだ。このレーベルは、ホセの『Dreamer: 10th Anniversary Edition』のリリースと共に昨年スタート。『I Am Here』は第2弾で、初のオリジナル作となる。彼女はホセの『While You Were Sleeping』(2014年)や『Love In A Time Of Madness』(2017年)などに作曲で関わり、ツアーにもシンガーとして参加、レインボー・ブロンドの運営にも携わっている。

 「私はもともとブルー・ノートで働いていて、その頃からレコードは一人で作るものではなくて、裏方を含めた全員で作るものだと思っていたの。オーチャード・セッションをやっていた時にも、関わった人すべてのページを立ち上げたくらいだし」。

〈オーチャード・セッション〉とは、マンハッタンのアパートにてターリが開いていたミュージック・サロンのこと。ここで彼女はホセやベッカ・スティーヴンスなどいろいろなアーティストとのセッション動画を配信していた。ホセやロバート・グラスパーの出身校としても知られるニュースクール大学を卒業したターリは、地元NYを活動の拠点としていたが、2年ほど前にLAへ移ることに。

 「ライヴ・ミュージシャンということであればNY以上の場所はない。でもソングライティングだとLAには映画ビジネスもあるし、仕事を得る機会が多いの。いまはLAに移るミュージシャンも多いしね」。

TAALI 『I Am Here』 Rainbow Blonde/ユニバーサル(2019)

 彼女は他のアーティストに曲を書く仕事のためLAを訪れたのだが、そのまま居着いてしまったのだという。そして作曲を掘り下げる魅力に改めて気付き、自分の音楽制作も開始。そのひとつの成果が今回のアルバムだ。オーチャード・セッションでは生楽器を中心とする楽曲が多かったが、『I Am Here』はシンセサイザーとプログラミングされたビートを使ってみずから制作した、エレクトロニックな一枚に仕上がっている。自身のヴォーカルも多重録音で重ね、ジャズをベースにしたNYでの活動とは違うアプローチだ。

 「私のルーツはイスラエル。家族はユダヤ教徒で、遡ればパレスチナの頃からの移民よ。イスラエルはアラブから避難してきた移民が多いから、中近東のメロディーがあるの。母はアシュケナジー・ジューイッシュという民族で、その民族音楽はハーモニックでマイナー・スケールが多いわね」。

 トラックはモダンだが、『I Am Here』にはイスラエルの民謡やイスラエル人作曲家のヨゼフ・ハダルによる楽曲のカヴァーも収められていて、〈ハーモニックでマイナー・スケール〉を使った曲はターリのオリジナルにも含まれている。また、幾重にも重ねたコーラスやハンドクラップを効果的に使うことで、シンプルなプロダクションにさまざまなレイヤーを生み出しているのも特徴的だ。それらが彼女の音楽を魅力的にしている。

 「これは私のなかにある祖先へのトリビュート。自分で30人分の声を重ねたりするのも、安息日にみんなで歌うことをイメージしているのよ」。

 NYではイスラエル出身のジャズ・ミュージシャンが長らく活躍をしてきた。そして、LAではリジョイサー(バターリング・トリオ)がストーンズ・スロウからソロ・デビューしたように、ビート・シーンとの繋がりも窺える。ターリはその両シーンに関係しているのが興味深いところだ。それゆえ、グラミー賞にもノミネートされたLAで活動する日本人プロデューサーstarRoのファンで、彼にリミックスを依頼したというのも頷ける話。彼女がイスラエル出身のシンガーではいちばん好きだというオフラ・ハザの音楽は、かつてさまざまなジャンルに拡がっていったが、ターリの作り出すサウンドもそのポテンシャルを秘めている。

 


ターリ
本名タリア・ビリク。NYはマンハッタン出身のシンガー・ソングライター。ニュースクール大学を卒業後にブルー・ノートで働き、2013年には自宅でミュージック・サロンを開いて、ベッカ・スティーヴンスやカミラ・メサとのセッション風景を動画で配信。ホセ・ジェイムズの2014年作『While You Were Sleeping』に曲を提供したことがきっかけで本格的にソングライティングを始め、ホセのツアーに帯同した後、2016年にLAへ移住する。2018年10月にデビュー・シングル“Hear You Now”を発表。同月にはホセのオープニング・アクトとして来日する。このたびファースト・アルバム『I Am Here』(Rainbow Blonde/ユニバーサル)をリリースしたばかり。