左から、ヴォルフガング・ムースピール、スコット・コリー、ブライアン・ブレイド ©NinoFernandez

繊細なサウンドによる刺激的な会話が楽しめるトリオはいかが?

 シンプルなメロディからアヴァンギャルドな抽象まで幅広い感性を持ち合わせ、ゲイリー・バートンやポール・モチアン、ラルフ・タウナーなどとのグループからオーケストラまで、様々なコンテクストで音楽を作り続けてきたオーストリア人ギタリストのウォルフガング・ムースピールが、ブライアン・ブレイド(ドラムス)とスコット・コリー(ベース)とのトリオで2020年発表のアルバム『Angular Blues』を引っ提げて、4月に来日公演を行う。

 ブライアンは1990年代から、トリオを含むウォルフガングの様々なリーダー作に参加してきた。スコットも、トリオのベーシストとしてはマーク・ジョンソン、ラリー・グレナディアに続く3代目となるが、ウォルフガングとノルウェーのシンガー、レベッカ・バッケンの双頭プロジェクト『Daily Mirror』(2000年)に参加して以来の、長い付き合いである。

 「ベーシストが交代することでトリオのコンセプトがとくに変わるわけじゃない。でも、スコットと一緒にツアーをしたりアルバムを作ったりすることで、僕は彼を想定した曲を書くようになった。ラリーやマークとも同じ曲を演奏できるけれど、サウンドやソロの取り方には、スコットならではの〈カラー〉があるんだ」

 ギターにドラムス、ベースというトリオは、楽器編成としてはありふれているが、「数々の共演を重ねてきて、ある特定の素養を共有しているこのメンバーだからこそ、言いたいことが言える」という。「あと、僕のトリオでは、レパートリーの多くでクラシック・ギターを使っている。僕にとってクラシック・ギターは、エレクトリックを使うようになる前に最初に手にしたギターで、より自分の心に近い楽器なんだ。家ではいつも弾いているしね。ところが、クラシック・ギターというのは、ドラマーに対してエレクトリックと一緒にやるのとは違うアプローチを要求する楽器で、全てのドラマーにそれができるとは限らない。その点ブライアンは、クラシック・ギターと一緒に演奏するための素晴らしい感性を持っている。そんなわけで、編成としてはありふれているけれど、このトリオは僕らならではの音楽を創り出していると思う。楽曲の点でも、演奏の中で交わされる会話の点でもね。だから、伴奏もソロと同じぐらい重要なんだ」

 ちなみに、『Angular Blues』は、2018年にウォルフガングがこのトリオで来日した際に、東京で録音されたものである。最初の3曲は、彼の心に近いというクラシック・ギターで演奏され、「ギターで最初に覚えるような簡単なコード基にした、僕が今まで書いた中でもいちばんシンプルな曲」だという“Hüttengriffe”は、親しみやすいメロディも印象的で、ストリーミングでは桁違いに再生数が多い。2曲の“Kanon”は、タイトル通り2本のギターが追いかけっこをするようなテーマの曲だが、多重録音ではなく、ディレイ・エフェクトを巧みに利用した演奏となっている。彼が初めて書いた〈リズム・チェンジ〉(日本では〈循環〉とも呼ばれる、ブルースと並んでジャズでもっともポピュラーなコード進行)の曲だという“Ride”は軽快なスウィング、2曲のスタンダードは彼のお気に入りで、来日時にコットン・クラブで演奏したものを、ほとんどそのままのアレンジで録音したという。全体としては、シンプルなトリオによるアコースティックで繊細なサウンドが基調だが、様々な方向性の曲がちりばめられた、刺激的な作品となっている。

 「日本でアルバムを録音したこのトリオでふたたび日本公演をするのは、僕らにとっても楽しみなんだ。曲は『Angular Blues』からのものと、まだ発売されていないけれど録音は完了している、次のアルバムからのものを取り合わせるつもりだよ」

 


ウォルフガング・ムースピール(Wolfgang Muthspiel)
1965年、オーストリア・ユーデンブルク生まれ。1986年に渡米し、ニューイングランド音楽院で学ぶ。ボストンのバークリー音楽大学でゲイリー・バートンと出会い、彼のクインテットに招かれる。1995年から2002年までニューヨークを拠点に活動し、多彩なアーティストと共演。マーク・ジョンソン、ゲイリー・ピーコック、ポール・モチアンらのアルバムにも参加した。2012年の『Travel Guide』で、ギタリストのラルフ・タウナー、スラヴァ・グリゴリヤンとのギター・トリオのメンバーとして ECM作品に初参加。2014年、ベーシストのラリー・グレナディアとドラマーのブライアン・ブレイドをフィーチャーした『Driftwood』、2016年にはブラッド・メルドー、アンブローズ・アキンムシーレを迎えたクインテットによる『Rising Grace』など4作品をECMから発表。

 


LIVE INFORMATION
WOLFGANG MUTHSPIEL TRIO with BRIAN BLADE & SCOTT COLLEY
2023年4月3日(月)福岡・宮若 古民家SHIKIORI
2023年4月4日(火)神戸・神戸 100BANホール
2023年4月5日(水)、6日(木)東京・丸の内 コットン・クラブ