エネルギッシュなバンド・サウンドが生まれる瞬間を捉えた、ドキュメンタリー
コロナ・パンデミック中も、精力的にレコーディング活動を繰り広げてきた、コンテンポラリー・ジャズ・サックスの最高峰の一人、クリス・ポッター(テナー・サックス/ソプラノ・サックス/フルート/バス・クラリネット)。彼は、パンデミックの出口が見え始めた2022年2月に、ヴィレッジ・ヴァンガードでの3枚目のライヴ・アルバムを、録音した。
「ここ数年恒例になっていた、年末から年始にかけての週のヴィレッジ・ヴァンガードでのレジデント・ギグに、デビュー当時から共演しているスコット・コリー(ベース)、2000年代初頭から私の片腕的存在のクレイグ・テイボーン(ピアノ)、10年ほど前からよくプレイしているマーカス・ギルモア(ドラムス)に声を掛けた。この4人でバンドを組むのは初めてだったのだが、オリジナル曲ではなく、全て私が大きな影響を受けた曲をプレイするというアイディアを思いついた。年末年始のギグは、コロナ禍で2月に順延されたが、このメンバーで12月に行ったリハーサル的なレコーディングで好感触を得た私は、ライヴ・レコーディングを決意した」と、ポッターはアルバムの背景を語ってくれた。
「私が6、7歳の頃、親しんだブルースの“You Gotta Move”は、私の根幹を成している曲であり、故郷のサウス・カロライナの海岸エリアに住むアフリカ系の人々のフォーク・ソング“Got The Keys To The Kingdom”と、私の幼少期の記憶とリンクした曲だ。私がニューヨークに来た頃に師事した、チャーリー・パーカー(アルト・サックス)のバンド・メンバーだったレッド・ロドニー(トランペット)からは、多くを学び貴重な経験をさせていただいた。パーカーの“Klactoveedsedstene”は、ビバップをコンテンポラリー・ジャズの手法でプレイした。愛してやまないビリー・ストレイホーンのラスト・バラード“Blood Count”は、私のとってスペシャルな曲だ。ミルトン・ナシメント(ヴォーカル/ギター)に私がインスパイアされたアマゾンのフォーク・ソング“Nozani Na”と、アントニオ・カルロス・ジョビン(ピアノ/ヴォーカル/ギター)の“Olha Maria”も、セレクトした。複雑なアレンジを施した曲から、メンバーがフリーでオープンなインプロヴィゼーションを交わす曲と、まさに初顔合わせの4人のエネルギッシュなバンド・サウンドが生まれる瞬間を、オーディエンスの熱狂とともに捉えたドキュメンタリーとなった」と、ポッターは振り返る。クリス・ポッターは自らのルーツを遡り、また新たな頂点を目指す。