グールドのバッハの全てがここにある! ほとんど研究書と呼ぶべき216ページ解説書もすごい!!

 これはソニーミュージック・ジャパンの壮挙だ。20世紀が生んだカナダの伝説的ピアニスト、グレン・グールドのバッハ録音全部をSACDハイブリッド盤にしたもので、世界に先駆けた日本独自の取り組みである。

GLENN GOULD 『バッハ全集(SA-CD ハイブリッド・エディション)』 Sony Classical(2023)

 1955年録音のデビュー盤『ゴールドベルク変奏曲』から、1981年の同じ『ゴールドベルク変奏曲』の再録音までの米コロムビア録音21枚、カナダCBCへの放送録音、モスクワでのライヴ、ザルツブルクでのライヴ(各1枚)を収録している。うち半数以上の13枚が初SACDハイブリッド化である。グールドの個性的なノン・レガート奏法による粒立ちの良いピアノの音、生き生きとしたリズムの流れ、ポリフォニック(多声的)で立体的な音の構築、そして有名な演奏に合わせての彼のハミング……。グールドのバッハを特徴づけるこうした要素が、ハイレゾ・サウンドでいっそう生々しく蘇ったのである。

 2枚のボーナスCDにはグールドのインタヴュー2編 (〈コンサート・ドロップアウト─ジョン・マクルーアとの対話〉〈“ゴールドベルク変奏曲”新録音について――ティム・ペイジとの対話〉、及びグールドがドイツ盤LPのために語った〈ドイツ語でバッハの音楽を語る〉が収録されている。もちろん前者は英語、後者はドイツ語であるが、解説書に全文が訳出されているほか、その録音の背景が前者はグールド研究で有名な宮澤淳一氏、後者は独文学者の吉田真氏により詳述されている。

 この解説書というのが216ページ(!)に及び、ほとんど研究書と呼ぶべきもの。上記日本語訳と解説で45ページ。また収録の24枚についてドイツの音楽学者シュテーゲマン氏と宮澤氏が68ページにわたり1枚ずつ詳細に解説。シュテーゲマン氏による総論が9ページ、一部の初出LPでライナーノーツに掲載されたグールド自身による曲目解説とインタビューが20ページ、トラックリストも注釈付きで34ページと、凄まじい徹底ぶり。まさに〈グールドのバッハの全て〉がここにある!