ポップの名裏方では済まされないマイク・ヴァイオラの真価
知る人ぞ知るシンガー・ソングライター、マイク・ヴァイオラが昨年パニック!アット・ザ・ディスコ(以下PATD)の『Viva Las Vengeance』で全曲を共作、共同プロデュースまで務めたことには驚かされた。過去にも“Victorious”などを共作しているものの、マイクの全面参加でPATDがパワー・ポップに深入りするとは意外。現在56歳のマイクは首謀者のブレンドン・ユーリーより21歳も上だが、ツアーもサポートする仲良しぶり。このたびのマイクの新作『Paul McCarthy』ではブレンドンがドラムス、PATDをサポートしてきたジェイク・シンクレアがベースを担当している。
マイクの名が広く知られるようになったのはマサチューセッツ州からNYへ出て結成したキャンディ・ブッチャーズから。デビューEPを発表した96年、トム・ハンクス監督の映画「すべてをあなたに」の主題歌“That Thing You Do!”でマイクがヴォーカルを担当。この曲の作者がアダム・シュレシンジャー(ファウンテインズ・オブ・ウェイン/アイヴィー)だったこともあって、主にギター・ポップ・ファンの間でキャンディ・ブッチャーズの名が知れ渡った。しかしデビュー・アルバムの発表直前でレーベルが倒産。その後バンドはソニー傘下のRPMからアルバム3枚を発表するも、ヒットせずに終わった。
ソロ活動を本格化させると『Lurch』(2007年)以降傑作を連発。2010年代に入ってから裏方仕事も増えた。ライアン・アダムス、フォール・アウト・ボーイ、ジェニー・ルイスなどの作品をプロデュース。2016~2021年はヴァーヴでA&Rマンとして働いた。この時期に彼が育てたマディソン・カニンガムは先ごろグラミー賞で最優秀フォーク・アルバム部門を受賞。またジョン・コルトレーンの発掘プロジェクトにも関わった。
その間も2018年の『The American Egypt』、2020年の『Godmuffin』とソロ作を発表、日本ではベスト盤もリリースされるも、兼業の状態が続いていた。だが、友人のシュレシンジャーが新型コロナ・ウィルスに感染、2020年に急死したことにショックを受け、自身の音楽活動に本腰を入れようと決心したという。
新作『Paul McCarthy』は『Electro De Perfecto』(2011年)以来久々にバンド・サウンドを中心にした明快な作品。参考資料として、マイクはブレンドンとジェイクにブラック・サバスやジェイムズ・ギャングを聴かせたというからおもしろい。と言っても、狙いはベースとドラムスがどう反応し合っているのか学ばせることにあり、持ち味である〈ビートルズの遺伝子〉を感じさせるメロディーの魅力は変わらない。
独特な詞世界も健在で、“Bill Viola”の詞を連ごとに見ていくと、登場人物たちは皆、並行世界に暮らすマイクのようだ。タイトル曲“Paul McCarthy”でも芸術家ポール・マッカーシーの体を借りて、ビートルズの一員になった自分を夢想する。
キャンディ・ブッチャーズの『Hang On Mike』(2003年)に収められた“Painkillers”は若くして癌で亡くなった最初の妻キムについて歌っていたが、本作の“Love Letters From A Childhood Sweetheart”は彼女の母に捧げて書かれており、落涙を禁じ得ない。80年代風アレンジのキャッチーな“I Think I Thought Forever Proof”も、〈もしも若いバンドマンだった頃の自分が大成功して、キムが生きていたら……〉という設定で書いた曲だったりする。
現在の妻について書いた軽快な“You Put The Light Back In My Face”や、娘とコラボした“2023”も含む本作は、私的なテーマを多く取り上げた極めて親密なポップ・アルバム。オーヴァーダブを最小限に抑えたサウンドもフィットしていて、聴くほどにメロディーの味わいが増すビタースウィートな秀作だ。
マイク・ヴァイオラの過去作を一部紹介。
左から、2011年作『Electro De Perfecto』(Hornblow)、2012年作『Acousto De Perfecto』、2020年作『Godmuffin』(共にGood Morning Monkey)