前作から半年で早くもニュー・アルバムが登場! 自身で運命を切り拓いてきたインディペンデントなシカゴの注目株は現行R&Bの最前線を行く!

 正式なアルバム・デビューは2020年に発表した『Hopeless Romantic』。だが、ティンクは、その時点でミックステープやEPを含めて10作近くを出していた。シカゴ郊外出身で95年生まれの彼女(本名トリニティ・ローリアレ・ホーム)が最初に注目を浴びたのは2014年、カール・トーマスの“My First Love”を引用し、ジェレマイを迎えた“Treat Me Like Somebody”。サンプリング源の歌い手もゲストもシカゴ出身で、翌年には映画「Chi-Raq」のサントラにてR・ケリーが歌うハウス調の“Put The Guns Down”でラップを披露するなど、シカゴアンとしての誇りを感じさせながら歌とラップの二刀流であることも印象づけた。歌は幼少期に教会で、ラップは15歳の時から始め、その二刀流ぶりはDJダヒが手掛けたケレラとの企画曲“Want It”(2014年)でも確認することができる。

 ペンタトニックスの“Can’t Sleep Love”(2015年)に客演していたことを知る人もいるだろう。それと同じ年にティンバランドのモズリーから発表したのが、アリーヤの“One In A Million”を引用した“Million”だ。ティンバランドは同曲でティンクを、かつて自身が手掛けたアリーヤに重ね合わせた。が、アリーヤのフォロワーになる気などなかった彼女は、ティンバランドのもとでアルバムを完成させるも、それをお蔵入りにしてティンバと決別。その後はインディペンデントで作品を発表し、自身のミックステープのタイトルを冠したウィンターズ・ダイアリーを立ち上げ、自力でキャリアを立て直す。2020年以降は年一ペースでアルバムを出し、昨年はベイビーフェイスの『Girls Night Out』に招かれたように、R&Bの最前線を行く女性シンガーのひとりとして、前作で共演したマニー・ロングらと共に改めて注目を集めている。

 新しい門出にプロデューサーとして貢献したのは、2021年作『Heart Of The Moment』以降のアルバムを全面援護している同郷のヒットメイカ。ほとんどの曲に〈ヒメッ!〉というお馴染みのプロデューサー・タグが登場し、その親密さゆえに恋仲との噂も立ったが(ティンクいわく親友)、昨年の『Pillow Talk』から半年で届いた今回の新作『Thanks 4 Nothing』にも、彼を中心にOGパーカーら複数のプロデューサーたちと共同で制作した楽曲が並んでいる。

TINK 『Thanks 4 Nothing』 Winter’s Diary/Empire(2023)

 〈何もしてくれなかったことへの感謝〉という表題は、別れた恋人に対する皮肉。「シングルの女の子や別れを経験した女の子、独り立ちしようとしている人に捧げるアルバムを作りたかった」とのことで、怒りの感情を込めた“Fake Love”を筆頭に、失恋から自分の価値を見出し、自分の時間や喜びを取り戻していく様を、トラップ系のビートに乗ってペタペタと張り付くような声で歌っていく。気鋭のアイボリー・スコットがペンを交えた“Save Your Soul”ではまさに魂の救済を歌い、サウンドパックからビートを購入して作った“I’m The Catch”では「自分自身が自分の最高のファンであるべき」とメッセージを投げかける。

 前2作では、エリカ・バドゥ、タイリース、デスティニーズ・チャイルド、ブランディ&モニカらのR&Bクラシックを引用していたが、今作からも名曲のフレーズが聞こえてくる。先行シングル“Toxic”は、ジャズミン・サリヴァンの“Lions, Tigers & Bears”を下敷きにしたハチロク系のバラードだ。また、カーディアックやウーテンも制作に絡んだスロウ・バラード“Let My Guard Down”で引用されているのは、ジェイミー・フォックス feat. トゥイスタの“DJ Play A Love Song”。ここでティンクと掛け合うのはタイ・ダラー・サインだが、オーガニックな音色のスロウ“Stingy”に参加したヤング・ブルーともども、本作で声を交えるゲストは、共にティンクと同じ歌とラップの二刀流である。特に前々作にも参加したヤング・ブルーとは相性が良く、今回の“Stingy”は彼の最新作『Love Scars II』にも収録されるなど、お互いを高め合っているような印象も受ける。

 故クーリオのヒットとは同名異曲で、SZAの“Good Days”を手掛けたナセントとロス・ヘンドリックスが制作に絡んだ“Gangsta’s Paradise”も含めて、サウンド的には似たスタイルが続くが複雑な心理描写がスリリングな本作。「シカゴにいると最強のコンセプトが見つかる」と話すティンクの非凡なストーリーテラーぶりにも注目したい。

左から、ティンクの2021年作『Heat Of The Moment』、2022年作『Pillow Talk』(共にWinter’s Diary/Empire)、ベイビーフェイスの2022年作『Girls Night Out』(Republic)