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ベイビーフェイスの〈女子会〉アルバムと、背景にあるR&Bの好況

 「アルバムを作りながら『Waiting To Exhale』のサントラを手掛けた時のことを思い浮かべていたよ」。

 95年にリリースされた同サントラは、ベイビーフェイスが書いた曲を女性R&Bシンガーたちが歌ったものだ。それを思い出しながら作ったというのが、このたびキャピトルに移籍して発表した7年ぶりの新作『Girls Night Out』である。こちらも女性アーティストだけを招いた作品で、フェイス自身も歌うが、実質的にはゲスト参加した現行の女性R&Bシンガーたちが主役となるアルバム。フェイスが気鋭のシンガーを紹介するショウケース的な内容となっている。

BABYFACE 『Girls Night Out』 Capitol/ユニバーサル(2022)

 

女性たちの聞き手として

 いわゆる美メロに加えて、女心を汲み取った歌詞を書くことにも長けたフェイスが、これまで数多くの女性アーティストをサポートしてきたことは周知の通りだ。2010年代以降もビヨンセ、アリシア・キーズ、アリアナ・グランデ、ヴィクトリア・モネイ、トリー・ケリーなどに関与。アリアナに提供した“Baby I”(2013年)は彼女のブレイクの後押しになった曲でもあった。また、長らくの付き合いとなるトニ・ブラクストンとは、引退を考えていたトニをフェイスが引き止め、ふたりでの連名アルバム『Love, Marriage & Divorce』(2014年)も発表。その後、H.E.R.やエラ・メイといった新世代が台頭しはじめ、気づけばいまや女性シンガーの百花繚乱状態。そうした流れも踏まえて制作したのが、今回の新作『Girls Night Out』となる。

 タイトルが意味するのは〈女子会〉。カラフルでポップなイラストのジャケットもコンセプトを一目で伝える。描いたのは、NYブロンクスでグラフィティ・アートに囲まれて育った画家のリッキー・ヒーラマンだ。人気パーソナリティのララ・アンソニーがアンジー・マルティネスをバーに誘い出す寸劇のイントロで、フェイスが〈さて、今夜は何を飲もうか、レイディーズ?〉と語りかけてアルバムは始まる。ここでのフェイスはバーのマスター。アリ・レノックスを迎えた“Liquor”もそのイントロに呼応していて、お酒を恋模様にかけて歌う。カーディ・Bとミーガン・ジー・スタリオンの“WAP”(2020年)を手掛けたエイヨーらが制作したミディアム・ナンバーだ。以降、どの曲もファースト・ヴァースから歌いはじめるのはゲストの女性。フェイスは彼女たちの歌にレスポンスして甘くテンダーな声を僅かに交えるだけだが、それはバーに訪ねてくる女性たちの聞き手として人生や恋愛を指南するという設定だからである。

 そんな本作にエグゼクティヴ・プロデューサー/コプロデューサー/A&Rとして関わったのが、現在の公私にわたるパートナーとなるドイツ人モデルのリカ・ティッシェンドルフだ。彼女の意見も汲みつつ、ゲストの選定においては声にこだわったという。招かれた女性アーティストの大半は90年代生まれ。彼女たちとは一緒にLAのスタジオに入って録音したという。コロナ禍以降急激に増えたリモート録音ではないところに、Face to Faceなこだわりが見てとれる。サウンドメイキングにおいては、フェイスと共同で制作を手掛けるクリス・リディック・タインズが活躍。レオン・トーマスと組んでアリアナ・グランデやケラーニなどを手掛けてきたラスカルズの片割れだ。