〈きみ〉に向けた真っ直ぐな思いが交錯する〈推し活エンターテイメント〉、ついに劇場版が登場!
過剰な〈推し活〉道から転がり出す笑いと涙、その先に浮かび上がる青春群像劇
懸命なエールとひたむきなパフォーマンスを通じ、推す側と推される側が互いに差し出し合う真っ直ぐな思い──爽やかな多幸感と一途なエモーションに満ちたクライマックスの光景を前にして、目頭が熱くなるのは私だけではないはず。
累計発行部数が100万部を超える平尾アウリ原作の人気コミック「推しが武道館いってくれたら死ぬ」。岡山に住む平凡なフリーターだった主人公が地元の地下アイドル、ChamJamの市井舞菜と出会い、ほぼ唯一の舞菜推しとして一目置かれるトップオタへと成長(?)。パワフルな〈推し活〉道を突き進む彼女の日常を描いた同作は、2020年にTVアニメ版が、2022年にTVドラマ版が公開され、メディアミックス化が進められてきた。そして、この5月にいよいよ封切られるのが今回の「劇場版 推しが武道館いってくれたら死ぬ」だ。
TVドラマ版と同様に、「のだめカンタービレ」の清水一幸、「NANA」「神ちゅーんず ~鳴らせ! DTM女子~」の大谷健太郎という、音楽をモチーフにした若者の群像劇を得意とするタッグがプロデューサー/監督を担当。キャスト陣も続投で、主人公のえりぴよ役には元乃木坂46の松村沙友理。すらりとした美人ながら出で立ちはいつも高校時代の赤い指定ジャージというヴィジュアル面のハマり具合は相変わらずだ。そのうえで、ときに鼻血を出し、白目を剥き、戦隊ヒーローばりのポーズをキメ……と、舞菜に対する真剣すぎ、かつ過剰すぎるアプローチをコミカルに体現しつつ、その原動力にある年頃の女性らしい繊細な心の動きも表現している。
熱量の高いえりぴよの応援活動と、それを嬉しく思いながらも生来の内気さが災いして塩対応になってしまう舞菜。その図らずも珍妙なやり取りから笑いが転がり出すコメディとしても秀逸な本作だが、根底となっているのは、アイドルとドルオタ、あるいはChamJam内のメンバー同士、ライバルとなるアイドル同士など、相手を思う気持ちの交差が幾重にも重なる青春群像劇だ。そこにオリジナルのエピソードを交えた今回の劇場版では、ChamJamの東京進出に端を発する舞菜の挫折と、推し活がままならない状況のなかでそれを知ったえりぴよなりのエールの方法を軸に展開する。ただ、思い人を応援し、その応援に対して真摯に応えるという行為は二人を取り巻くほかの登場人物たちにも通底するもので、各々の成長が連鎖して形成される本作の世界観は、どこまでも眩しく、愛おしい。