©Elliot Morgan

UKベース・ミュージックを牽引し続ける2人がファースト・アルバムを完成! 雑食性にエピックな感覚を重ね、ダンス・カルチャーの覇者へと王手をかける!!

 DJカルチャー発のUKベース・ミュージックにおける現在を象徴するアーティスト、オーヴァーモノがファースト・アルバム『Good Lies』を名門XLよりリリースした。彼らはエドとトム・ラッセルの兄弟によるデュオで、それぞれソロとして2010年前後より活動をスタート。エドはテセラ名義でインダストリアルなレイヴ・サウンドを、そしてトムはトラス名義でヘヴィーなテクノをリリースしていた。

 オーヴァーモノとしては、2016年にXLと契約、まずシングルの〈Arla〉3部作を発表した。〈Arla〉シリーズのサウンドはベース・ミュージックとテクノを立脚点に、IDMからトランスなど、さまざまな要素を呼び込んでいたもので、よく言えば多様な可能性に満ちたもの、しかしいま新作からの視点で聴くと、少し雑多でどこか2人のサウンドの交点を暗中模索していたような印象もある。

 やはりこのアルバムへと直接続く作品は、本作と同じく写真家、ロロ・ジャクソンがジャケットを手掛けた2020年の“Everything U Need”以降のシングル群だろう。何かが吹っ切れたかのようにテクノ、プログレッシヴ・ハウス、UKガラージ、ブレイクビーツ、ジャングルとさまざまなエッセンスを自在に操り、ここまで多数のフロア・バンガーを産み続けてきた。

 彼らのそのアイデアの源泉たるDJとしてのセンスは、UKクラブ・シーンの牙城とも言えるファブリックが新たに立ち上げたミックスCDシリーズ〈Fabric Presents〉の一枚でも伺い知ることができる。彼らのサウンドに立ち現れる上記した多様なジャンルを繋ぐリズム・デリヴァリーで構成され、彼らのオリジナル作品と地続きの感覚は非常に強い。ジャングルやUKガラージなど同地のDJカルチャーから生まれた音楽の魅力として、その〈雑食性〉と、基礎となる〈ベース・ミュージック〉のミクスチャーが昔から挙げられてきたが、まさに彼らはその系譜のど真ん中だと言えるだろう。また彼らはベース・ミュージックのカッティング・エッジを届けるレーベル、ポリ・キックスも運営。アンダーグラウンド・シーンにおいてもプロップスを受け続けている。

OVERMONO 『Good Lies』 XL/BEAT(2023)

 と、そんななかでリリースされた『Good Lies』は、これまで通りUKガラージなどのベース・ミュージックを下地にし、DJとしての経験を折り込みながら新たな表現へと進んだ作品となった。まず、何よりも本アルバムを聴いて耳を引くのはヴォーカル使いだろう(サンプリング・ループも含めて)。オープニングの“Feelings Plain”のイントロから声ネタが印象に残るが、本作のラスト・トラックとなる“Calling Out”で、ラッパーのスロウタイとXL所属のカシスデッドをフィーチャーしているのが象徴的だ。また、サウンド全体の大きな変化で言えば、エピック(壮大)な感覚を持っているところも特筆すべき。アルバムの最終曲ということもあるだろうが前述の“Calling Out”の後半や先行楽曲“Is U”などは、プログレッシヴ・ハウスやトランスのようなドラマティックな側面を持っている。アルバム以前にポリ・キックスからリリースされ、本アルバムにも収録されているアンダーグラウンド・ヒット・トラック“So U Kno”のようなミニマルな楽曲と比べると、その違いは明らか。このあたりはここ数年、ヨーロッパのクラブ・シーンで、一昔前のアンダーグラウンドなシーンでは敬遠されていたプログレッシヴ・ハウスやトランスのエピックなサウンドがリヴァイヴァルして(発掘されて)いて、こうした感覚をDJでもある彼らが自然と取り入れたというのもあるだろう。

 ただ、こうした変化には、ここ数年のライヴ・アクトとしての活動も少なからず影響を与えているのではないか。端的に言えば、より大きな聴衆に向けて表現の舵を切ったということ。そのあたりも含めて本アルバムは、オービタルを始祖に近年ではディスクロージャーなど、DJカルチャーを礎にしながらもフェスやビッグルームで通用しているダンス・アクトの列に加わろうとする気概を感じられる作品だ。それこそ、今年の〈フジロック〉では、2人のそうした姿を目撃できるかもしれない。

オーヴァーモノの近作を一部紹介。
左から、2021年のシングル『BMW Track/So U Kno』(Poly Kicks)、2021年のシングル『Diamond Cut/Bby』(XL)、2021年に手掛けたミックスCD『Fabric Presents Overmono』(Fabric)、2022年のシングル“Cash Romantic”(XL)

オーヴァーモノがリミックスした近年の作品や『Good Lies』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、トム・ヨークの2020年のシングル“Not The News”、フォー・ゾーズ・アイ・ラヴの2021年のシングル“I Have A Love”(共にPoly Kicks)、スロウタイの2023年作『Ugly』(Method)、ティルザーの2021年作『Colourgrade』(Domino)