©Daiki Tateyama

〈彼の音〉から〈自分の音〉へ。
未来へと繋がっていく、21世紀のロマン派

 陶酔を断ち切る、ベートーヴェンのシンフォニー。腕を振り上げるDJと、歓声を上げるオーディエンス。それは、見たことのないクラシックの姿だ。

 クラシカルDJにして指揮者、水野蒼生。

 交響曲やオペラの名曲を、大胆な手法で現代化してきた彼がこの夏、初のオリジナルアルバムを発表した。

 「1枚目でDJ MIX、2枚目でシンフォニーの拡大解釈を試みて、3枚目ではオペラの〈歌〉を現代的にアレンジ。結果として手ごたえを感じましたが、同時に〈自分のサウンドは何だろう〉という興味が。ゼロから作ったら、僕は何を生み出すんだろう。それを知りたいと思いました」

水野蒼生 『HYPER NEO POST ROMANTIC』 ユニバーサル(2023)

 そうして生まれたのが、第4弾アルバム『HYPER NEO POST ROMANTIC』。ポスト・クラシカルならぬ〈ポスト・ロマンティック〉をコンセプトに、水野が全曲の作詞作曲を手がける。

 「ロマン派のはじまりはベートーヴェン。それ以前の音楽は教会と宮廷のためのもので、主語がHeでした。しかし、ベートーヴェンははじめて〈俺の音〉を世界に発信し、音楽の主語をIにしたんです。シューベルトやリストなど、自分の音を求める人たちがそれに続いた。彼らの心境が、現在の自分とぴったり重なったんです。〈彼の音〉から〈俺の音〉へと変化した気持ち。それを表現するなら、テーマは〈ロマン派〉であるべきだなと」

 アルバムは交響詩のように壮大なサウンドスケープと、私小説のように親密な没入感で私たちの胸に迫る。同時に、現代の若者を描いた映像作品のようでもある。

 「架空の映画音楽だと思って作ったんです。音楽的にはコルンゴルトの存在が大きい。なぜなら、アメリカに亡命した彼とともに、ロマン派はハリウッドの映画音楽として生き延びたと思うから。それをジョン・ウィリアムズが引き継いで、ハンス・ジマーたちが脈々と繋いでいるのです。ドビュッシーの交響詩“海”の一節を無限ループさせた“Umi”のほか、引用したクラシック作品にも思い入れがあります。4曲目“The chemist dreams.”の引用は、ボロディンの未完の遺作。日本初演を指揮した思い出の曲です。8曲目“In Paradism”は、フォーレのレクイエムを下敷きに。誰かを弔うとき、悲しみの中にもせめて救いがあってほしいとフォーレは考え、批判されてもあえてこの曲を付け加えた。だからこそ、エピローグはこの曲しかないと思いました」

『HYPER NEO POST ROMANTIC』収録曲“Umi”の詩

 アレンジから作曲へ。内省から解放へ。音を見つけた音楽家の歓びが、アルバムからこぼれ落ちる。

 「ずっと、自分自身のシグネチャーになるサウンドがほしかった。このアルバムを通して、この音でやっていきたいと思える〈音〉を見つけられました。その〈音〉が、さらに未来へと繋がっていく音楽として、たくさんの方に受け入れてもらえたらと願っています」

 


LIVE INFORMATION

水野蒼生『HYPER NEO POST ROMANTIC』リリース記念単独公演
2023年7月21日(金)東京・表参道 WALL&WALL
開場/開演:18:00/19:00
出演:水野蒼生+RASEEN(機械三重奏編成)
ゲスト出演:chami /南雲愛美
チケット発売:2023年6月10日(土)よりイープラスにて発売開始
主催:水野電氣交響楽団
https://eplus.jp/sf/detail/3892360001-P0030001

 


RELEASE INFORMATION

水野蒼生 『HYPER NEO POST ROMANTIC』 ユニバーサル(2023)

品番:UCCS-1333
価格:3,000円(税込)
好評発売中
https://tower.jp/article/feature_item/2023/03/10/1104