ずっと真夜中でいいのに。のニューアルバム『沈香学』が高く評価され、話題になっている。ABEMA「今日、好きになりました。」の主題歌“不法侵入”、TVアニメ「チェンソーマン」第2話のエンディングテーマ曲“残機”、2022 Spotify Holiday TV CMソング“綺羅キラー(feat. Mori Calliope)”、ライブで定番曲になっている“あいつら全員同窓会”“ミラーチューン”など、注目の13曲が詰まった本作。ここでずとまよが奏でていることとは? そして、ACAねの歌が表現していることとは? ライター・蜂須賀ちなみが綴る。 *Mikiki編集部

ずっと真夜中でいいのに。 『沈香学』 ユニバーサル(2023)

 

100回嘔吐の編曲による統一性、起承転結の鮮やかなデザイン

“秒針を噛む”のMV公開から5年。〈ずっと真夜中でいいのにって溢した午前5時。〉とデビュー5周年を感じさせる歌い出しが印象的な3rdフルアルバム。フルアルバムのリリースは2年4ヶ月ぶりで、今作はその間に配信リリースされた楽曲や、4thミニアルバム『伸び仕草懲りて暇乞い』からの楽曲、そして初収録の新曲といった計13曲によって構成されている。

今作の一つの特徴は、活動初期からずとまよの楽曲アレンジを手掛けてきた100回嘔吐が共同編曲として全曲に関わっていること。それによって統一性が生まれ、アルバム全体で描く起承転結がより鮮やかにデザインされた。

『沈香学』トレーラー

 

新しいものを作る音楽家のあるべき姿

新曲のラインナップは、ホーンセクションがオープニングを告げるなか、ベース&ピアノが終始跳ね回っているファンクナンバー“花一匁”、ベースラインをはじめとしたバンドサウンドはハードロック/メタルを思わせるほどいかついが、口笛のリフは脱力感を誘うというコントラストが面白い“馴れ合いサーブ”、R&B~ネオソウル的なアプローチに真正面から取り組んだ“不法侵入”、和製ダブの系譜を継ぐ“上辺の私自身なんだよ”といった4曲。4曲とも〈古きを温ねて新しきを知る〉といった意欲が漲る実験的な内容であること、新曲が真に新しい曲であることはリスナーにとって嬉しいポイントだ。これこそが音楽家の本来あるべき姿だと改めて感じ入る。

『沈香学』収録曲“花一匁”“不法侵入”

扇風琴はじめ本来楽器ではなかったものを楽器として組み込んだ(主にライブにおける)アンサンブル編成や舞台演出、そして最近では文字フォントなど、ずっと真夜中でいいのに。は新しくオリジナルなものを常に生み出してきた。そのありようはもはや発明家といった感じだが、そもそも、なぜ人は新しいものを作るのだろう。それは既存のものでは足りないと感じるからで、例えば、ACAねの書く歌詞が〈同音異義語や類音語を連想ゲームのように発展させながら言葉遊びをする〉ものである理由は、この書き方でしか表せない感覚があると彼女自身が感じているからだろう。ユーモラスかつ難解で婉曲的な言い回しになりがちなのは心の声を隠したりごまかしたりするためではなく、むしろ自身の微細な感覚に迫るため。心および言葉の検証・研究を重ねるような心持ちで彼女は詞を書いているのではないだろうか(それは作曲に関しても同様)。