コンテンポラリーなブラー
ところが蓋を開けてみると、デーモン・アルバーンは昨年のゴリラズのツアー中にホテルで曲を書きはじめ、大晦日までに24曲が出来上がっていたという。そして今年1月にはデヴォン州のデーモンのスタジオでメンバー全員に曲を聴かせてレコーディング開始。その後ロンドンのスタジオ13に録音場所を移し、5月にバンドが英コルチェスターでの記者会見で語った内容によると、なんと4月にはすべて完成していたそう。つまり、非常にスムースに進行している。
実際にアルバムを聴いてみると、全員でレコーディングを進めたことがよくわかる、オルタナティヴ&インディー・ギター・ロックの現在地を伝えるサウンドだ。スティーヴン・ストリートと久しぶりに組んだ前作『The Magic Whip』のポップ感とは異なり、なるほど今回はジェイムズ・フォードがプロデュースしたことでふくよかな音の質感がブラーにコンテンポラリーな先鋭性を付与している。例えばスロウテンポの“Russian Strings”や“Avalon”はアークティック・モンキーズの近作を思い出させるほど。ちなみにジェイムズ・フォードは、すでにデーモンとはゴリラズで、グレアムとはウェイヴで一緒に作品を制作済み。気心の知れた関係性だ。
演奏する全員の顔が浮かぶオルタナティヴでインディーズな音、と書くと誰もがすぐ想像するのはグレアムの切り裂くようなオルタナ・ギター・サウンドやフィードバックかも知れない。だが、今回それは意外に控えめ。最終曲の“The Hights”のアウトロのオーラスの思い切ったノイズに片鱗が見えるくらいだ。
むしろ今回は、グレアム自身が自分のギターのオルタナ感を現代的にアップデートしようと考えたのでは、とさえ思う。もっとも旧来的なオルタナのエネルギーを感じさせる曲は先行シングルの一つだった“St. Charles Square”だが、ここでもグレアムのギターは存在感こそあれ、あくまで美しくヴォーカル・ラインをバックアップ。もっともポップな“Barbaric”や、ワルツのリズムで軽やかに進む“Far Away Island”などでも、空間を染め上げる柔らかいフィードバックや、曲全体を美しさで底上げするグレアムのギターの旋律にうっとりさせられる。新しい。
約35年間を共に歩んた4人で、ぱっと録音してさっと完成させる。それでこのクオリティなのだから流石。互いへの信頼が音から聴こえる様は、感動的だ。この夏には〈サマーソニック〉での来日も予定されている。彼らの現在地点を見ておかねば、と決心させるアルバムだ。 *妹沢奈美
ブラーの過去作。
左から、2015年作『The Magic Whip』、2003年作『Think Tank』(共にParlophone)、99年作『13』、97年作『Blur』(共にFood)
ブラーの作品。
左から、95年作『The Great Escape』、94年作『Parklife』、93年作『Modern Life Is Rubbish』、91年作『Leisure』(すべてFood)