©RKB毎日放送/TBSテレビ

「ロックがあったからブルースのよさがわかった」
――音楽への敬愛を呟く鮎川誠の生涯を振り返るドキュメンタリー

 映画「シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ~ロックと家族の絆~」は、日本のロック黎明期から唯一無二のロックンロール・ギターを鳴らしてきた鮎川誠の人生を通して、彼が最愛の妻シーナと組んだ最強のバンド、シーナ&ロケッツの活動、そして2015年にシーナを見送った後もバンドを続け、最後までロックと家族を愛した鮎川の74年の生涯を振り返るドキュメンタリーだ。

 映画の母体となったのは2023年2月5日にTBSの番組「ドキュメンタリー“解放区”『シーナ&ロケッツ 鮎川誠と家族が見た夢』」(制作 RKB毎日放送)。シーナが亡くなった後もシーナ&ロケッツとして活動を続ける鮎川の半生を振り返りながら、鮎川とシーナ、3人の娘たちの姿を追う。またバンド仲間や友人たちを通して、福岡のロック・シーンの歴史を伝えている。3女がシーナの後を継いでロケッツのフロントで歌うようになり、新たな方向に進み始めた鮎川へのエールを送る番組だったはずだ。ところが放送直前の2023年1月29日に鮎川がすい臓がんでこの世を去ったため、急遽番組の最後に追悼の言葉が添え放送されたのだった。その後に家族や友人などの証言を加え新たな編集を経て完成したのが本作である。

 シーナの故郷である北九州市若松にかかる若戸大橋のたもとで、鮎川は久留米弁で訥々とシーナとの出会いや思い出を語る。「シーナ&ロケッツがなくなったら、シーナが悲しむと思う」穏やかな語り口はステージでのパワフルなギタープレイと対照的だが、愛用のライダーズジャケットがライヴを重ねてきた彼の人生を物語っているようだ。二人は鮎川が福岡の伝説的バンドであるサンハウスの一員だった頃に出会い、やがて結婚。双子の陽子と純子を授かった。そしてシーナの父に背中を押されて二人は上京しシーナ&ロケッツとして活動を開始する。

 シーナ ロケッツが注目を集めたのは、1979年に当時YMOの一員だった細野晴臣がプロデュースしたアルバム『真空パック』だ。鮎川と既知だった高橋幸宏が紹介したと言うエピソードも映画の中で語られている。このアルバムからシングル・カットされた“ユー・メイ・ドリーム”はシーナ&ロケッツの代表曲の一つだ。映画の中で貴重なデモ音源が流れる。作詞はサンハウス時代からの盟友である柴山俊之。

 どんな場所でも鮎川は爆音で黒のレスポール・カスタムを鳴らし、シーナはウルトラミニ・スカートでステージに立った。二人とも高身長で派手なライダーズジャケットやラメのコスチュームがよく似合い、ロック・アイコンとして近寄りがたいほどの存在感があった。そして荒々しいパワーを発散しながらも独特の品位を感じさせ、説明抜きで黙らせるような圧巻のライヴをやり続けた。 鮎川はステージを降りれば誰にでも優しく接し、初対面でも胸襟を開いて音楽談義をしたりした。そんなエピソードを甲本ヒロトが語っている。それは音楽への率直なリスペクトの現れといえよう。だからニューヨーク録音をした時にオノ・ヨーコに会うとダコタハウスに招かれたり、ローリング・ストーンズ来日時にはバックステージで交流を持った。またイギリスのロック・レジェンド、ギタリストのウィルコ・ジョンソンとは深い友情をつなぎ、何度も共演した。

 鮎川は言う。「夫婦でロックなんてかっこよくない。でもいいんだ」。ステージでの二人は、夫婦を超えた音楽のパートナーだった。シーナが歌うために鮎川はギターを弾き、鮎川のギターに合わせシーナはタンバリンを振る。そんな二人のために奈良敏博(ベース)と川嶋一秀(ドラムス)がビートを叩き出す。45年のシーナ&ロケッツの歴史の中でリズム隊は何度か交替したが、最後はサンハウスのメンバーだった奈良と川嶋が活動を共にしていた。

 福岡は今も多くのロック・バンドやアーティストを排出するが、その歴史の発端は鮎川たちにあると言ってもいいだろう。友人のひとり松本康はロックやブルースのレコードがメインの〈ジューク・レコード〉を開き、長年ロック好きな若者が集まる場所になった。松本亡き後の店内で昔を思い出しながら「ロックがあったからブルースのよさがわかった」と鮎川は謙虚に音楽への敬愛を呟いた。

 裏表のない鮎川たちは長年暮らした下北沢の街に根付き、3人の娘たちを育てて来た。小学校前に父兄が交代で立つ〈緑のおばさん〉当番に、シーナがラメのボディコンで旗を振っていたと言うのは地元では有名な話。また愛犬を連れて散歩する姿もよく見かけられた。娘さんたちはかっこいい両親が自慢だったそうだ。そんな三姉妹も今は一人前。長女はモデル/アーティスト、次女がバンドのマネジメントを引き受け、末娘はシーナ亡き後シーナ&ロケッツのヴォーカリストになった。生きるためにロックする。彼らはそんな家族だった。

 


MOVIE INFORMATION
映画「シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ~ロックと家族の絆~」

出演:鮎川誠/シーナ/鮎川陽子/鮎川純子/LUCY MIRROR/唯子
ナレーション:松重豊
監督・編集:寺井到
撮影:中牟田靖/宮成健一/丸本知也
編集:高尾将
音効・MA:寺岡章人
協力:ジュークレコード ロケットダクション ビクター ・ エンタテインメント
プロデューサー:緒方寛治/坂井博行
製作:RKB毎日放送
製作幹事:TBSテレビ
配給:KADOKAWA
宣伝:KICCORIT
©RKB毎日放送/TBSテレビ
2023年/日本/カラー/16:9/5.1ch/98分
2023年8月11日(金・祝)より福岡先行公開、8月25日(金)より全国公開
https://rokkets-movie.com/