オーストラリアの現代サーカスを牽引するグラビティ&アザーミス
現代サーカスの魅力や妙技を世界に発信!
筆者が〈BACKBONE〉の舞台を見たのは、2018年のモントリオールだった。現代サーカスファンならば、フランスのカンパニーXY(以下、XY)をご存じの方が多いだろう。ほとんど全てのXYの作品を見てきた筆者にとって、Gravity & Other Myths(以下、GOM)はある意味、衝撃だった。
XYの作品が流れるような〈ポエム〉を想起させるなら、GOMはパン!と弾ける、刺激的な〈トニック〉だろう。また、GOMは限界がどこかを、探し続けているようにも見える。
極限を追求する、というアプローチは、かつての伝統サーカスとも重なる。GOMはそれとは違うのだろうか? 今回、モントリオールで、アーティスティック・ディレクターのダーシー・グラントと創立メンバーのラッキー(ジェイムス・ラクランの愛称)に話を聞くことができた。彼らいわく、「完璧を追求して、毎回、完全に同じものを提供する。そのことで飽きられてしまうのを避けるため、僕らは、毎日、毎回、少しずつ変化するようにしている。練習法を変えたり、音楽を少しずつ変えたり……つまり、慣れをなくし、常に何らかの難しさ、つまり〈不確実性〉を加えるように心がけているんだ」。複数人数で行うアクロバティックな技、ハンド・トゥ・ハンド、ポルテなどは、長い年月のたゆまぬ鍛錬を要する。
不確実性は、サーカスにとっては、通常は避けるべきものだ。クラウン(ピエロ)などが行う観客との交流を除き、サーカスには即興の部分はほとんど無いと言ってもよい。それくらい、大技には厳密さが必要だからだ。
不確実性が可能だとすれば、それはやはり、長い時間をかけた相互熟知の関係でしかあり得ない。
ラッキーは言う。
「僕らのようなアクロバット(パフォーマー)には、純粋で本物の、共通言語があるんだ。同じ種目をやっている人たちとは、付き合いが浅くても一緒に動ける。だけど、深みのある表現をするには、長い時間をともにした相手じゃないとだめなんだ」。 GOMの創立メンバーは、オーストラリア・アデレードの歴史あるサーカス・スクール〈Cirkidz〉で、幼い頃からともにサーカスを学んだ仲間である。長い人では20年以上の付き合いだという。ダーシーも実は昔、同じ種目を実践するアーティストだった。
やはりその種目を知っている人が演出したほうが良い?とラッキーに訊いてみる。
「そうだね。同じバックグラウンドの人間であれば、信頼できるし、シーンを提案されても素直に受け入れやすいね」。
〈BACKBONE〉のステージは、ゆったりとした、神秘的な音に包まれている。青い光、そして、バックボーン=背骨というタイトルを象徴するかのような、多数の棒がびっしりと、床に並べられている。棒だけではない、人間も、びっしりと、床に敷き詰められている。その横には青白く光る、鎧。儀式のような静けさは、突然、明るい光によって破られる。
ダーシーは、プロの写真家でもある。彼のつくる舞台の視覚的印象が強いのは、そのためだろう。ナイトブルーに包まれた舞台に、人工的な白い光のライン。一方、床には砂や岩や木といった、洗練された光とは対照的な、ざらざらとした質感が支配する。この相反する感覚こそが、GOMの魅力のヒントかもしれない。
おもむろに、男女が起き上がり、機敏な動きでみるみると、棒たちを垂直に立てていく。あたかも横たわったガリバーの肋骨のように。動きは加速する。やがてするすると、仲間の肩のうえに立ち、2人の塔ができ、さらにもう一人がよじ登り、3人の塔になる。塔どうしが近づき、片方のタワーから、1人が相手の塔に乗り移り、ついに4人の塔になる。拍手が巻き起こると、緊張感は解かれ、ひとり、またひとりと地上に着地する。互いに肩をたたき、いつもの、GOMの若者の笑顔に戻る。
ダーシーが、GOMの秘密を教えてくれた。
「技術がサーカス先進国にかなわないなら、別な見せ方をするしかない。そのひとつが、〈耐久力〉だよ」。作品の終盤、出演者の体力は限界に近づいてくる。その、最終盤に、これでもかと、最後の力を振り絞るのである。サーカス・アーティストだけではない、音楽家も、きりきりと音色を絞っていく、ヴァイオリンの弦が切れるまで。
耐久力! なんて生生しいんだろう。そして、最後まで頑張った彼らの、大笑いが聴こえてくる。人間っていいな、ただ、そう思える。
ダーシーとラッキーは言う。「僕らにとって一番大切なのは、仲間とお客さんと、真剣に関わること。そして、化学反応。それがなければ、何もやる意味はないんだよ。」GOMは教えてくれる。サーカスは人間の芸術だ。
INFORMATION
Gravity and Other Myths「BACKBONE」(グラビティ&アザーミス「バックボーン」)
高知公演ONLY!
2023年9月30日(土)高知県立美術館ホール
開場/開演:18:30/19:00
2023年10月1日(日)高知県立美術館ホール
開場/開演:14:30/15:00
上演時間:80分
年齢制限なし
■チケット(税込・全席指定)
一般前売/当日:3,000円/3,500円
学生前売/当日:1,500円/2,000円
※お席を必要としないお子様(3歳以下)は無料
※年齢制限はありませんが、5歳以上のお子様の鑑賞をおすすめします
※身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・戦傷病者手帳・被爆者健康手帳所持者とその介護者(1名)は3割引です
■割引料金
一般前売券:2,100円
一般当日券:2,450円
学生前売券:1,050円
学生当日券:1,400円
(ローソンチケットは割引対象外)
■前売券販売所
・高知県立美術館ミュージアムショップ/TEL. 088-866-7653 (9:00~17:00)
・金高堂書店本店:高知市帯屋町2丁目2-9/TEL. 088-822-0161 (10:00~20:45)
・ローソンチケット(Lコード:62386) ※ローソンチケットのみ県外店舗でも販売しています
主催:高知県立美術館(公益財団法人高知県文化財団)
後援:オーストラリア大使館、高知新聞社、RKC高知放送、KUTVテレビ高知、エフエム高知、KSS さんさんテレビ、KCB高知ケーブルテレビ、高知シティFM放送
お問い合わせ(高知県立美術館):〒781-8123 高知県高知市高須353-2/TEL 088-866-8000/FAX 088-866-8008
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