Page 2 / 3 1ページ目から読む

コンセプトを超える楽しさ

 導入の“Hello, Billy Bob”ではニューオーリンズのシャノン・パウエル(プリザヴェーション・ホール・ジャズ・バンド)がドラムを叩いているが、前作の基盤にあったNOLAらしさも今回はパレット上に置かれた色のひとつだ。2曲目のアーシーでスピリチュアルな“Rain Dance”ではジャスティン・ビーバーの“As Long As You Love Me”を引用しつつネイティヴ・アメリカン居住地で結成された音楽集団だというネイティヴ・ソウルをフィーチャー。同曲を共同プロデュースした売れっ子のジョン・ベリオンとピート・ナッピ、テンロックによるチームは、アルバムのポップな面に推進力を与えている。

 スペインのジャズ・シンガー兼トロンボーン奏者であるリタ・パイエスを迎えたフォーキーな“My Heart”ではブラクストン・クックも参加。さらには宇宙的でパーカッシヴな“Worship”、ナイジェリアのファイアボーイDMLとジョン・ベリオンを交えたアフロビーツ“Drink Water”、メロディカも活躍するベッドルーム・ソウル“Calling Your Name”、滑らかな歌唱とピアノにNOLAの英雄リル・ウェインが絡む“Uneasy”(ウェインのギター・ソロも聴きもの)、ビートメイカーのテイデックスが援護する小気味良いディスコ“Call Now (504-305-8269)”、ベリオンとナッピが手掛けたソロ曲“Don’t Say Love”も記憶に新しいリー・アン(リトル・ミックス)を招いたホーリーでプライマルな“Running Away”……と大雑把に書き出してみただけでもその彩りは明白だ。

 他にもピアノ弾き語りの“Butterfly”、カッサ・オーヴァーオールのビートに乗るニューウェイヴ的な“Boom For Real”も好ましく、ケニーGのサックスで送る“Clair De Lune”、シャソルの独壇場な“Chassol”らのインタールード的な登場もラジオのザッピング感覚を演出する。作品は終盤へ向かってトラディショナルな薫りを増していき、ニック・ウォーターハウスとのカントリー“Master Power”やサザン・ソウル風味の“Wherever You Are”を経て、ラナ・デル・レイとの美しいデュエット“Life Lesson”で雰囲気十分に幕を下ろす。

 無造作に〈ワールド・ミュージック〉を掲げるアメリカらしさや現代的なバランスへの配慮などを感じつつも、実際に聴けばコラボが単なる目的に終わることもなく、豊かな成果が素直にアルバムを楽しませてくれる。それは企画意図や狙い以上に、主役のミュージシャンシップがそこに溢れているから。前作以上に親しみやすい必聴の傑作と言えそうだ。

『World Music Radio』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、JIDの2022年作『The Forever Story』(Dreamville/Interscope)、カミーロの2022年作『De Adentro Pa’ Afuera』(Sony US Latin)、NewJeansの2023年作『Get Up』(ADOR)、リタ・パイエス&エリザベト・ローマの2021年作『Como La Piel』(Pol Castellvi Payes)、ブラクストン・クックの2023年作『Who Are You When No One Is Watching?』(Nettwerk)

『World Music Radio』に参加したアーティストの関連作を一部紹介。
左から、ジョン・ベリオンの2018年作『Glory Sound Prep』(Capitol)、ファット・トニー&タイデックスの2020年作『Wake Up』(Carpark)、ケニーGの2021年作『New Standards』(Concord)、シャソルの2020年作『Ludi』(Tricatel)、アルドランドの2021年作『Deux』(Favorite)、カッサ・オーヴァーオールの2023年作『Animals』(Warp)