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本編と特別編で完璧なエンディングを迎えた「あまちゃん」のその後だが、主演の能年は〈のん〉と名前を変え、アキにも負けないアグレッシブな活動を進めていく。音楽や舞台でもその才能を花咲かせ、アニメ映画「この世界の片隅にでは声優として俳優キャリアに残る名演を披露。そして、私をくいとめてでは橋本愛と「あまちゃん」以来となる共演を果たす。いずれの作品でも、「あまちゃん」では表現する機会がなかった大人の色気を感じさせる一方で、一段とレベルアップした〈怒り〉の演技で観る者に強烈なインパクトを残した。

片渕須直 『この世界の片隅に』 バンダイビジュアル(2017)

大九明子, のん 『私をくいとめて』 東映ビデオ(2021)

また、「この世界の片隅に」ではコトリンゴの“悲しくてやりきれない”(ザ・フォーク・クルセダーズのカバー)、「私をくいとめて」では大滝詠一の“君は天然色”が印象的に流れ、のん主演作と昭和の相性の良さが図らずも露呈している点にも注目したい。

コトリンゴの2016年作『映画「この世界の片隅に」オリジナルサウンドトラック』収録曲“悲しくてやりきれない”

コトリンゴ 『映画「この世界の片隅に」オリジナルサウンドトラック』 flying DOG(2016)

大滝詠一の81年作『A LONG VACATION』収録曲“君は天然色”

大滝詠一 『A LONG VACATION』 ナイアガラ/CBS/ソニー(1981)

さらに、「あまちゃん」でも共演したさかなクンの半生をのんが演じるというウルトラC級の快挙を見せた「さかなのこ」での好演も記憶に新しい。予告映像でも一部が使用されているが、シソンヌの長谷川忍との爆笑必至のやり取りは「あまちゃん」ファンなら必見だろう。

沖田修一, のん 『さかなのこ』 バンダイナムコフィルムワークス(2023)

2022年の映画「さかなのこ」予告編

最近では、大友良英らが劇中曲を演奏する10周年記念のスペシャルコンサートに宮本信子とのんがゲストで登場。ロケ地でもある岩手県久慈市でも開催され、名曲“潮騒のメモリー”などを歌唱したそう。ドラマが終わって10年経っても、演者と土地がここまで密接な関係を続けているのも「あまちゃん」ならでは。なお、のんは自身のYouTubeチャンネル〈のんやろが!ちゃんねる〉でも現地を訪れる姿をアップしており、その地が地元でないファンも感慨深い気持ちでいっぱいになってしまう。

のん以外では、宮藤官九郎は2019年に「あまちゃん」のスタッフ陣が集まった大河ドラマ「いだてん ~東京オリムピック噺~」(大傑作!)の脚本を担当。また、「あまちゃん」で若き日の春子を演じた有村架純は、これをきっかけに大ブレイクを果たし、2017年前期の連続テレビ小説「ひよっこ」ではヒロインを熱演、2019年には異例の続編となる4夜連続のスペシャル版「ひよっこ2」も製作された。

有村架純 『ひよっこ2』 NHKエンタープライズ(2019)

同シリーズは、60年代を舞台にした作品ということもあり、“ひょっこりひょうたん島”“涙くんさよなら”など当時のヒット曲が数多く劇中において使用されたほか、ビートルズ来日ツイッギーブームの様子も描かれるなど昭和の懐かしさを感じられる名作なので、未見の方はぜひチェックしてもらいたい。

といった感じで、その後をピックアップしていくと枚挙に暇がない。間違いなく言えるのは、ドラマのなかで勉さん(塩見三省)が琥珀を掘削し続けたように、われわれも「あまちゃん」の魅力を今後も深堀していき、この10年と同じく今後も10年、20年、30年と、長きにわたって愛し続けるということ。そして最後に一言、「あまちゃん」放送開始10周年おめでとう!