「桃源郷っぽい音楽を作りたい、という想いは通底音のように常にあるんです」

 作曲家/編曲家として幅広い分野で活動する網守将平。Daokoを中心にしたオルタナティヴなポップ・バンド、QUBITのメンバーであり、大貫妙子のバンド・メンバーとしても活躍するなど多彩な才能を発揮してきたが、近年は映画の世界にも進出。現在公開中の映画「サンセット・サンライズ」のサントラを手掛けている。監督:岸善幸、脚本:宮藤官九郎、主演:菅田将暉による本作は、三陸の小さな港町に東京から移り住んできた大企業のサラリーマン、西尾晋作と地元の人々との交流を描いた物語だ。岸監督から網守に音楽に関する指示はなく、どんな曲を作るのか。そして、どこに曲をのせるかも任されたという。

 「音楽のジャンルとか方向性とか、何も気にせずに自由に作りました。むしろ少し意識したのは、エキゾチカというか桃源郷的な雰囲気です。僕は東京生まれの東京育ちなので、東京からきた晋作が〈ここ天国ッスか!?〉って驚く気持ちに感情移入できました。桃源郷っぽい音楽を作りたい、という想いは、自分が音楽を作るときに通底音のように常にあるんです。大貫さんのバンドで演奏している時も、勝手にシンセでふわふわした音を出したりするし(笑)」

©楡周平/講談社 ©2024「サンセット・サンライズ」製作委員会 LLC

 サントラで印象的なのは、生楽器を織り交ぜたエレクトロニカ的な曲。それが物語のユーモラスな部分を表現している。

 「宮藤さんの脚本のコミカルさをどんな風に表現しようかと考えた時に思いついたのが、最近ヨルゴス・ランティモスの映画のサントラを手掛けているジャースキン・フェンドリックスでした。クラシックの編成でサントラをやっているんですけど全部打ち込みなんですよ。あえて打ち込みとわかるような音にすることで、デコボコした郷愁感を生み出している。その味わいが宮藤さんのユーモアに合っている気がしたんです」

網守将平 『映画「サンセット・サンライズ」オリジナル・サウンドトラック』 コロムビア(2025)

 なるほど、曲の終わりに音を歪ませるのは「哀れなるものたち」を思わせる。そう伝えると網守は「あそこはまさにそうですね」と屈託なく笑った。とはいえ、言われないと気づかないくらいにサントラは独自のサウンドになっている。そうした個性的な曲がある一方で、叙情性を滲ませたアンビエントな曲もあり。その緻密な音の重ね方に、現在ハリウッドで主流になりつつある音響的なサントラに通じるものを感じさせた。

 「そういう音響的なサントラを日本にも輸入した方がいいんじゃないかと思っていて。そういう音をさらに洗練させて汎用性を持たせることに未来を感じているんです。でも、邦画らしいわかりやすさも必要なので、メロディを少し入れたりしつつも説明的になりすぎない、というバランスは大切にしました」

©楡周平/講談社 ©2024「サンセット・サンライズ」製作委員会 LLC
©楡周平/講談社 ©2024「サンセット・サンライズ」製作委員会 LLC

 また、網守が手がけた映画挿入歌“サンセット・サンライズ”のヴォーカルを担当したのはシンガー・ソングライターの青葉市子。その歌声は風のように自然に風景に溶け込んでラストシーンに余韻を残す。青葉を指名したのはもちろん網守だ。

 「青葉さんの歌声は、エキゾチックな雰囲気も都会的な洗練も感じさせて、さりげなく観客に寄り添う。そんな風に歌えるのは彼女しかいないと思いました。映画挿入歌に使用したテイクは彼女がiPhoneで録音したデモ音源なんです」

 サントラが果たす役割を網守に尋ねると「観客とスクリーンの距離感を調整すること」と答えてくれたが、映画を観ている時、音楽は絶妙の距離感で映像と一体になっていた。でも、サントラだけを聴いた時、そこに紛れもなく網守の作家性が息づいている。今後、網守が映画音楽の世界で重要な役割を担っていくのは間違いないだろう。

 


FILM INFORMATION
映画「サンセット・サンライズ」

監督:岸善幸
脚本:宮藤官九郎
原作:楡周平「サンセット・サンライズ」(講談社文庫)
音楽:網守将平
歌唱:青葉市子
出演:菅田将暉、井上真央、中村雅俊、三宅健、池脇千鶴、竹原ピストル、山本浩司、好井まさお、小日向文世ほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
(2024年|日本|139分)
©楡周平/講談社 ©2024「サンセット・サンライズ」製作委員会
https://wwws.warnerbros.co.jp/sunsetsunrise/