川本真琴のニューアルバム『ひかり』。収録曲“universe”のミュージックビデオが公開され、佐内正史が撮影した写真のパネル展の開催が決定するなど、話題が続いている本作。Mikikiはこのアルバムについて川本と吉田豪のトークイベントの模様をお伝えしたが、今回はミュンヘンでの録音に全面的に参加したキーパーソン、植野隆司(テニスコーツ)と川本へのインタビューを掲載。これまで語られていなかった具体的な制作プロセスや、川本の新境地と言うべき独特なアコースティックサウンド&ボーカル表現が生まれた背景が、ついに明らかにされる。 *Mikiki編集部
川本真琴&月山
――この10年近く、川本さんにとって一番共演歴の多いのが植野さんかと思いますが、そもそも知り合ったきっかけは?
植野隆司「ゴロニャンず※じゃないすか? 三沢(洋紀)くんに誘われて」
川本真琴「そうそう」
植野「バンド名がゴロニャンずになったのは少し後だけど」
川本「最初、〈公園で集まって何かやっているような音楽やりません?〉って私が三沢さんに言ったら、三沢さんから植野さん、池上加奈恵さんを紹介してもらって、澤部(渡)さんは私が誘いました」
――バンド名が当初なくて、〈考えておいて〉と川本さんから言われて、結構いい案を出したのは覚えています。〈川本真琴&月山〉とか。
植野「即身仏で有名な」
――そう、森敦※。
川本「それもカッコよかったかもですね」
――それが知らぬ間にゴロニャンずになった。
川本「でした」
あの人たちと録音できるかなぁ?
――今作で全曲演奏してくれたホッホツァイツカペレ(Hochzeitskapelle)を川本さんに紹介したのは植野さんですが、いつから一緒に?
植野「このバンドのマークス・アーハー(Markus Acher)が(高橋幸宏とのコラボレーションでも知られる)ラリ・プナ(Lali Puna)というユニットで来日した時(2015年2月、東京・代官山UNIT)に、テニスコーツに会いたかったらしくて呼ばれたんです」
――ゴロニャンずが出来た翌年だ。で、テニスコーツがドイツに行ったりしました。
植野「その後にライブでミュンヘンに呼ばれて行きました」
川本「わぁ」
植野「マークスってミュンヘンでは名士みたいなもんで。ザ・ノーツイスト※って、ミュンヘンの音楽の歴史で一番売れたバンドなんですよ。
そのマークスが〈テニスコーツを呼びたい〉って地元のシアターの人に相談したら、話がどんどん膨らんで〈フェスをやろう〉ってことになり、ミュンヘンでも銀座みたいなところのど真ん中のバブリーなシアターで2日間フェスが行われたんです。その小綺麗なとこにロック兄ちゃんみたいな汚い人たちが沢山集まる、という(笑)」
――それがいつ?
植野「2015年、〈Alien Disko〉というフェスです。サン・ラとか、とにかくマークスが好きなバンドを世界中から集めて。〈Alien Disko〉はそれから毎年続いて、僕らは毎回呼ばれてたんです。
そうなると一緒に音源を作ったりして、アルバム一枚分の曲が出来たからバンドにして作ったのが『Spirit Fest』(2017年)。それでバンドになったから、さらにツアーとかを組んでドイツやヨーロッパ周辺に行ったりして。とにかくドイツに頻繁に行きましたね。コロナ禍中でも年に2回とか」
――そして去年(2022年)11月のホッホツァイツカペレの来日ツアーの東京公演を川本さんが観たんですね。植野さんが誘ったんですか?
植野「いや、〈観に行きますー!〉って連絡が来たんだったかな」
川本「友人に〈ホッホツァイツカペレいいよ!〉って誘われて。それで、テニスコーツも参加しているから観に行きました」
植野「で、ライブが終わったら、〈あの人たちと録音できるかなぁ?〉と川本さんに言われて」
川本「そうです!」
植野「動き早っ!みたいな(笑)」
――川本さんは、ホッホツァイツカペレの何がどう良かったんですか?
川本「さやさんや、池間由布子さんが、歌で入っていたのがすごく良くて。全体がハッピーで、綺麗な水とか空気とか、そんな感じがしました」
植野「でも、それ、彼らには伝わってなかった」
川本「あ、そうなんですか?」