川本真琴

川本真琴が2023年7月19日にリリースしたニューアルバム『ひかり』。独ミュンヘンのブラスバンド、ホッホツァイツカペレ(Hochzeitskapelle)と盟友のテニスコーツ・植野隆司が全面参加し、ナチュラルで穏やかで幻想的なサウンドに挑んだ、これまでにない新機軸の新作だ。サブスク解禁や収録曲“ワールドエンド・ガールフレンド”のミュージックビデオの公開など、本作はリリース後も話題が続いている。

そんな『ひかり』と、川本が1996~2001年にソニー・ミュージックから発表した全シングルをアナログ化したボックス『川本真琴 Vinyl Single Collection』のリリースを記念して、川本とプロインタビュアーの吉田豪によるトークイベントが7月28日にタワーレコード横浜ビブレ店で開催された。脱線を繰り返しながら新作やソニー時代について語ったトークの模様をテキスト化してお届けしよう。

川本真琴 『ひかり』 MY BEST!(2023)

川本真琴 『川本真琴 Vinyl Single Collection』 Sony Music Direct(2023)

 

サブスク問題の真相

吉田豪「今日は宣伝色強めのトークをするようにと事前に言われたんですけど、無理ですよね(笑)。川本さん、できます?」

川本真琴「私、宣伝自体が得意じゃないので(笑)」

吉田「フフフ。わかりました。では探り探りいきましょうか」

川本「吉田さんは宣伝、得意ですか?」

吉田「ボクが宣伝を得意なわけないじゃないですか! ボクのインタビューはなるべく宣伝色をなくすのがテーマで、Twitter(X)でも宣伝が苦手なんですよ。感想をリツイートするのがせいぜいで」

川本「ホントですか!? そんな2人でトークを始めさせていただきます(笑)」

吉田「では、まずはサブスク問題について!」

※2022年9月、川本はTwitter(当時)で音楽サブスクリプション/ストリーミングサービスにおけるアーティストの利益の少なさについて問題提起をして話題になった

川本「いきなり(笑)!?」

吉田「昨日、『アフター6ジャンクション』(TBSラジオ)でこのイベントの告知をしてましたけど、えらい怯えてたじゃないですか」

川本「何かが起こるんじゃないかってね。吉田さんの記事はYahoo!ニュースになりやすいので」

吉田「なので、まずはニュースになりそうなこの話題から。ボクもサブスクに対して思うことはいろいろあるんですよ。もちろん大好きで使ってはいますけど」

川本「使ってるんですね。あのとき、インディーズのバンドをやってるミュージシャンの友達としゃべってたんですよ。その人が〈サブスクがあったらもうCDなんて全然売れないじゃん! もうどうにもならない!〉って話をしてて。特にインディでCDを作ってる人たちはそうなんですよね。すごく売れてる人たちはファンのみなさんが配信で聴いて、CDも買ってくれたりするんですけど」

吉田「CDが売れて、なおかつサブスクでも相当聴かれる人は、それなりのお金になるって話ですね」

川本「そう。でも、その友達が〈サブスクなんか将来に繋がらないし、あれのせいで音楽業界はもうダメだ〜!〉って言ってたのにすごい影響を受けて、調子に乗ってTwitterに書いちゃったんですよ。そしたら次の日、それが何百リツイートもされちゃって〈あ〜、やっちゃった!〉と(笑)」

吉田「ダハハハ! 〈川本真琴『サブスク考えた人は地獄に堕ちてほしい』に賛否両論〉とか、結構なニュースになってましたよ」

川本「私から離れて、ちょっとした社会問題になっちゃった。その発端が私で〈えっ、どうしよう?〉って。ラジオやテレビから〈取材させてください〉って依頼が結構きたんですよ。でもぶっちゃけ、サブスクのことはそんなに詳しく話せないんですよね」

吉田「使ってはいるわけですよね?」

川本「使ってます! 自分の曲も出してますし。なので依頼は断るしかないなと思って。専門的に語ってるYouTuberの方とかがいますが、私はそんな風に話せないですから」

吉田「だから、〈ちょっと言い過ぎました〉で終わらせたわけですね」

川本「一応謝っておこうかなって(笑)」

吉田「フフフ」

川本「あと私、3日ぐらい〈ヤバいな〉ってなってもすぐ忘れちゃうんですよね。Twitterもエンタメニュースもあまり見ないので。いろいろ言われて精神的にキツいなと思っても3日後にはそのことに飽きちゃってて、もういいやってなっちゃう(笑)。だから、私がどんな風に言われてたのかは知らないんですけど……」

吉田「そんなに悪くは言われてなかったですよ、一部の方は怒ってましたけども(笑)。なので何の問題もないです!」

川本「すみません。どなたかを怒らせちゃって……」

吉田「ダハハハ! サブスクって基本的に難しいものなんですよ。ボク、いろんなアーティストにインタビューしたときに聞くんです。〈サブスク、実際どうですか?〉って。そうすると、原盤権を持ってるごく一部の人たちはちゃんと稼げてるみたいなんですけど、そうじゃない人のほうが圧倒的に多いですね」

川本「そうですよね。私の場合、もちろんいい面もありますよ。海外の方が容易に聴けるのは大きいですし。あと、例えば20代とかの子が聴いてくれるのはやっぱサブスクの効果だと思うんですね。そういうチャンスがあるのは大きいです。プレイリストに入れてもらえると関連づけで聴いてもらえますし」

吉田「そういう恩恵はあるけれども……」

川本「ただ、もうCDの時代ではなくなってきてますよね」

吉田「そんなキツい状況についてタワレコで話すという(笑)」

川本「そうですね(笑)。でも現実的にそうじゃないですか」

吉田「もちろんそうです。実際、曲がサブスクかYouTubeにないと世の中に存在しないも同然ぐらいの時代になってると思うんですよ。なので、もちろん僕もものすごく便利に使っててプラスの面は大きいけれども、アーティスト側からしたら、曲をサブスクに出したはいいものの、まったくお金にならなくてびっくりした、という話をよく聞くのが現実ですね」

川本「周りの方々はどんなことをおっしゃってます?」

吉田「ホントにバラバラですよ。アイドルの方が昔のベスト盤をサブスクに出したら、当然権利は何も持ってないから、お金がまったく入らなくてびっくりしたと言ってました。歌唱印税で多少入ってくるのかもしれないですけど……」

川本「歌唱印税は全然ですね」

吉田「ですよね。だから権利をちゃんと持っておくことが大事なんだろうなって」

川本「そうですね。サブスクがあったほうがいろんな音楽を聴けるし、いいなっていう思いのほうがいまは勝っちゃってるかもしれないですね」

吉田「おっ! いまの川本さんのサブスク観としてはそんな結論?」

川本「はい」

吉田「〈地獄に堕ちろ〉モードではなくなった?」

川本「あれを書いたときは友達に影響されて書いちゃったんですけど、そこまで思ってなくて、ホント申し訳ないなって気持ちしかないです。ぶっちゃけ、ものすごくいろんな音楽が聴けますし、いいですよね、サブスク」

吉田「ダハハハ! 素直に褒めた!」

川本「今回の新譜はまだサブスクで配信してないんですよね

吉田「時間差を設けようという感じなんですか?」

川本「ちょっとまだ考えてないですね」

吉田「正直、いまは新譜を買うモチベーションがそこと関係してきちゃってるんですよ。サブスクにあるからCDを買わなくていいやってことが結構あるので」

川本「私も洋楽のCDを探しにショップに来ることが減りましたね。そんな話をここ(タワーレコード)でしてるっていう(笑)」

吉田「ボクは以前は週2ペースでタワレコで目撃されてましたが、いまは月2回ぐらいしか来てないんですよね。それでも来てます! 月2で来てます! まだヘビーユーザーです!」

川本「みなさんもタワレコに来ましょう!」

吉田「来ましょう!」

川本「楽しいですよ、CDショップは! そうですよね?」

吉田「大好きな場所なのは間違いないです。CDショップと書店には頑張ってほしいんですよ」

川本「ホントですよね」