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北島三郎とバッハをつなぐ弦

――1996年の『チェロ・スウィーツ 1. 2. 3』、1999年の『チェロ・スウィーツ 4. 5. 6』から2015年の『ゴルトベルク・ヴァリエーションズ』に至る経緯について説明してください。

「“無伴奏チェロ組曲”の2枚を出した後、まず、現在のサキソフォネッツとは別のサックス奏者たちと一緒に“無伴奏チェロ組曲”のコンサートをやりました。僕がソロで単旋律を吹いて、所々で他のメンバーにチェロの楽譜で重音部分の和音を吹いてもらうというスタイルで。その後、僕の独自の解釈で和声を作って。それは、当初の僕のコンセプトとは違うけど、その流れの中で『ゴルトベルク・ヴァリエーションズ』へ発展していった感じですね」

――その後2006年には、現在のサキソフォネッツのメンバーになりましたが、メンバーが替わった理由は?

「『ゴルトベルク・ヴァリエーションズ』にたどり着くまでの間、2007年に5音階音楽にフォーカスしたアルバム『ペンタトニカ』を出しました。今のメンバーはこのアルバムを作るために集まってもらったのですが、そこには、2005年にフランスでコンサートをやった経験も関係しています。ハバネラ・サクソフォン・カルテットと一緒にやったんです。彼らを紹介してくれたのが80年代に僕がパリに住んでいた時からのコーディネイターでもあったフランシス・ファルセトという人なんだけど、ある日彼と一緒にコンサートの演目を決めるミーティングのために劇場に行って、そこで劇場のボスから、バッハ“無伴奏チェロ組曲”以外に違う出し物もやってくれとリクエストされた時、ふとフランシスと目が合って、そうだ僕は昔から五音階音楽をやりたかったじゃないかって閃いて、“無伴奏チェロ組曲”と5音階の曲を交互にやったんです。そのために5音階の新曲を書いて。バッハと五音階のシマウマ模様コンサートです。その新曲達がアルバム『ペンタトニカ』のきっかけになってます」

――〈エチオピーク〉シリーズのプロデューサーとしても活躍しているフランシス・ファルセト!

「そう。だから、そのシマウマ模様コンサートを彼はすごく喜んでくれたんですが、五音階の演奏の方はリハーサルの時間があまりとれなかったこともあって、僕としてはあまり満足できなかった。ハバネラはクラシックの精鋭だからバッハの方はお茶の子さいさいなんだけど、五音階の方はコブシの回し方とか緩急のテンポ感とか、譜面化できない微妙なニュアンスがなかなかうまく伝わらなくて。そういう体験を踏まえ、日本で改めて5音階音楽をやろうと思いたって集まってくれたのが、今のサキソフォネッツの4人のサックス奏者なんです。いろんな人を紹介してもらい、東京藝大などにも行ったりして、最後にいいなと思ったのが、鈴木広志くんなど現メンバーがやっていたストライクというサックス・クァルテットでした」

――その4人がサキソフォネッツのメンバーになったのが2006年なので、もう17年にもなるわけですが、この間、彼らにも変化があったんでしょうね。

「もう今は、僕が何をやりたいのか、どういう音を出したいのかを身体でわかってくれている。そういう意味でも、もう家族みたいなものです。元々はバリバリのクラシックの人たちだけど、『ペンタトニカ』の録音時にすごく時間をかけて対話し、リハーサルも重ねました。奏法自体にも、細かい部分でいろいろリクエストして。コブシのニュアンスとか。譜面には書けないから口伝で。このメンバーで『ペンタトニカ』の次のアルバムを作りたいとずっと思っているんだけど、忙しくてなかなか手をつけられない」

――今回のコンサートではメンバーが1人替わるようですが?

「そう、仕事のスケジュールの都合で参加できない江川良子さんに代わり、田中拓也くんが加わります。これまでもスケジュールの都合でこういうことはありましたが、あの4人(林田祐和、江川良子、東涼太、鈴木広志)が正式メンバーであることに変わりはありません。」

――『ゴルトベルク・ヴァリエーションズ』では、コントラバス4人によるピッツィカートもすごく効果的ですよね。

「実はあれは、北島三郎さんの“漁歌”をプロデュースした時に思いついたんです。“漁歌”の録音の時、4人のコントラバスの弦の共鳴の凄さに圧倒されて。それがずっと頭の隅にあり、『ゴルトベルク・ヴァリエーションズ』の時に改めてやってみた。最初は、サックス5、チェロ2、コントラバス1という妥協した編成だったんだけど、思い切ってコントラバス4にして良かったです」

――“漁歌”は1983年だから、30年以上も温めていたアイデアだったわけですね。

「温めすぎだよね(笑)」

――そろそろバッハ関係の次の作品も作っていただきたいところですが…

「もちろんやりたいと思っているし、レコード会社も積極的に考えてくれているようです。以前から公言していますが、“フーガの技法”はやらねばと。なんとかしたいですね。」

――コンサートを間近に控え、改めてアピールしておきたいことは?

「この9人編成ユニットでやった最後のコンサートは2016年11月、岐阜市のサラマンカホールでした。あれから7年の間に各メンバーの身体細胞の新陳代謝もあったわけで、今回は今現在の音が出るはずです。サキソフォネッツの演奏はスコアに基づいているのではなく、身体に基づいている。そして、“ゴルトベルク”は借り物であり、どうすれば日本で生まれ育った自分たちに一番似合う音楽を作れるのかが大事だと僕は思っている。この7年間で我々がどう変化したのか、そこを聴いてもらえたらうれしいですね」

 


LIVE INFORMATION
究極のゴルトベルク
ヴィキングル・オラフソン+清水靖晃&サキソフォネッツ

2023年 12月3日(日)東京・すみだトリフォニーホール 大ホール
開場/開演:13:30/14:00

2023年 12月9日(土)大阪・住友生命いずみホール
開場/開演:13:30/14:00

■曲目
第1部 バッハ:ゴルトベルク変奏曲 BWV988(全曲)
ヴィキングル・オラフソン(ピアノ)

第2部 バッハ:ゴルトベルク変奏曲 BWV988(清水靖晃編曲 5サキソフォン 4コントラバス版)
清水靖晃&サキソフォネッツ

■出演
第1部:ヴィキングル・オラフソン
第2部:清水靖晃&サキソフォネッツ
清水靖晃(テナー・サキソフォン)/林田祐和/田中拓也/東 涼太、鈴木広志(サキソフォン)/佐々木大輔/中村尚子/高橋直人/出町芽生(コントラバス)

■チケット(税込・全席指定) ※未就学児入場不可
東京公演
S席/A席/B席/U25席:8,000円/7,000円/6,000円/2,000円
チケットスペース:03-3234-9999
https://www.ints.co.jp/u-goldberg1203s.html

大阪公演
S席/A席:8,000円/6,000円
ABCチケットインフォメーション:06-6453-6000
https://www.asahi.co.jp/symphony/event/detail.php?id=2588