越境のコンサート・シリーズ第3回
アジアン・ソウル空間
〈東洋と西洋、過去と現代、現実と空想 様々なボーダーを越えて世界を巡る音楽の旅〉。そんな謳い文句が掲げられたコンサート・シリーズ〈Beyond〉。本誌前号では第1回(11月14日)と第2回(12月1日)について書いたが、今号では12月12日に開催される第3回の内容を紹介しよう。〈シネマの情景〉なるサブタイトルが付いた第1回では4組、〈ヨーロッパ~バルカン超特急〉なる第2回では3組が登場したが、〈アジアン・ソウル空間〉と題されたこの最終回は清水靖晃&國本怜、滞空時間の2組である。
バリ島で民俗芸能を本格的に学んだ川村亘平斎を中心に2009年に結成された滞空時間は、ガムランをベースに東南アジアやアフリカ、日本などの民俗音楽の要素が盛り込まれたエスノ・ミクスチャー・サウンドと影絵を融合する総合アート集団だ。彼らは〈架空の島の民謡〉をコンセプトとして掲げており、実際そのパフォーマンスは影絵効果もあってインドネシアの村の夜をすぐに連想させる。しかし、ヒップホップ・マナーに沿った高度なサンプリング技術やリズム構造は過去よりもむしろ未来を喚起し、光と闇が交錯する妖しいサイバー空間へと観客をいざなってくれる。単純なエキゾティシズムなどにはけっして回収されない、時空を超えたサイケデリック&トランシーなスペクタクルは、まさに〈Beyond〉という大テーマにひったりだ。
そして、このコンサート・シリーズの大トリとして登場するのが、清水靖晃&國本怜のデュオ。70年代末にジャズのサックス奏者としてデビューした清水は、80年代に入るとマライアの中核として、ソロとして、ポスト・ジャズ的領域のフロンティアで活躍するようになった。各種伝統音楽、ロックやファンクやテクノ、クラシックなど様々な要素を取り込みつつコンピュータやサンプラー等の電子機器も活用した彼のボーダーレスな作品/パフォーマンスの先進性と創造力は、近年、欧米諸国の若いリスナーたちから高く評価され、当時の作品の再発も続いている。2018年には2度の欧州ツアーを大成功させたが、その時のライヴ・ユニットが今回と同じ、コンピュータとキーボードを操る國本怜とのデュオである。今回の演目もそのツアーのもの(ソロ作品『案山子』やマライア『うたかたの日々』の収録曲が中心)に近いと聞くが、既存の曲をモティーフにしつつも現場での即興演奏によって常に変態を繰り返す瞬発性と妄想力こそが清水の真骨頂。更なる進化が期待できるだろう。思えば、既に1983年に北島三郎“漁歌”をプロデュースしていた清水にとっては、本コンサートのサブタイトル〈アジアン・ソウル空間〉もまた自身の座軸のひとつであったはず。果たして我々は、いかなる未知の音響空間を体験できるだろうか。
LIVE INFORMATION
越境のコンサート・シリーズ
Beyond
vol.1 Beyond Cinema 〜シネマの情景〜
2022年11月14日(月)東京・渋谷 CLUB QUATTRO
開場/開演:17:45/18:30
出演:畠山美由紀/喜多直毅&黒田京子デュオ/スガダイロー/渋谷毅&仲野麻紀
越境のコンサート・シリーズ
Beyond
vol.2 Beyond Europe 〜ヨーロッパ~バルカン超特急〜
2022年12月1日(木)東京・渋谷 CLUB QUATTRO
開場/開演:17:45/18:30
出演:チャラン・ポ・ランタンとカンカンバルカン楽団/白崎映美 with 坂本弘道+ロケット・マツ/ジンタらムータ
越境のコンサート・シリーズ
Beyond
vol.3 Beyond Asia 〜アジアン・ソウル空間〜
2022年12月12日(月)東京・渋谷 CLUB QUATTRO
開場/開演:17:45/18:30
出演:清水靖晃+國本怜/滞空時間
■各日通常チケット
前売/当日:5,600円/6,100円
全自由席(整理番号付き)/税込・ドリンク代別
3公演セット券:12,000円
■予約・お問い合わせ
プランクトン:03-6273-9307(平日13:00~17:00)/https://www.plankton.co.jp/beyond/
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