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複製の先に新しい何かが生まれる

 そして、時代と共鳴し、圧倒的な支持を集めるVaundyがその先のヴィジョンを描き出すDisc-1は、コンセプチュアルなアイデアが幾重にも折り重なっている。

「もともと『replica』というのは、僕が大学の卒業制作で作った椅子の作品名でもあるんです。その椅子は〈ここに座って改めて音楽を聴いてみよう〉と、音楽に付加価値を与えるべく作ったもので、今年のホール・ツアーの会場でも展示しました。本当は音楽が聴けるように、椅子にCDプレイヤーを内蔵しようと思ったんですけど、それは実現できなかったので、その代わりにCDケースを制作して、そのCDケースが音楽に付加価値を与えるというコンセプトに落ち着きました」。

 本作の特殊パッケージ/アートワークはそのCDケースがモチーフとなっているが、〈複製品〉を意味する『replica』はストリーミング全盛の時代において、実体のあるCD、複製芸術としての音楽の意味を問いかける。また、本作には、Adoに提供した“逆光”と“怪獣の花唄”のセルフ・カヴァーが〈- replica〉と付けられたうえで収録されているが、この2曲もオリジナル・ヴァージョンの〈レプリカ〉である。レプリカを偽物やコピー品として、ネガティヴなものとして捉える向きもあるかもしれないが、アートの世界における『replica』は〈公式に認められた模造品〉を意味する。

 「そう、『replica』というのは悪い意味で使っている言葉ではないんです、ポップスの手法はすべてやり尽くされて、現代のポップスは過去の音楽のレプリカ、レプリカにレプリカを重ねながら組み合わせた音楽なんだということ。そのことに最初に気付いたとき、大きな落胆を感じたんですけど、いまはそこに未来を感じているんですよ。見方を変えれば、〈コピーやパクリと言われない説得力やオリジナリティーが問われている〉ということでもある。昨今の音楽は、参照する音楽が一世代前とか、その対象が近すぎたり、とりあえず形だけを真似たものが多かったりするじゃないですか。でも、音楽の歴史を紐解くと、さらに一世代前にはこういうレプリカがあって、その前の世代にはこういうレプリカがあるといった感じで、何層ものレイヤーがある。そうやってレプリカを上手く重ねることで、味に深みをどう出していくか、それが答えだと思うんです」。