夜が明けたら〈12月の雨の日〉だった
鈴木「僕のところに細野さんから電話があって、ギターを持ってちょっと来てくれないか?と言われて松本さんの家に行ったんだけど、あの時に大滝さんはなんでいなかったの?」
松本「あれは……不思議だね(笑)」
会場「(笑)」
鈴木「細野さんが松本さんの部屋のベッドの上で、生ギターで“12月の雨の日”を弾いていたなぁ」
松本「順を追って話すと、東北ドライブの時は紅葉がすごかったから秋だよね。その直後に大滝さんの若林の家に遊びに行ったんだ。その時に僕はこたつで“春よ来い”と“12月の雨の日”を詞先で書いて、2つ並べて」
鈴木「目の前の景色が詞になったんだね。〈♪こたつを囲んで~〉(“春よ来い”)っていうのは」
松本「大滝さんの生活をそのまんま詞にしたんだよ」
安田「〈家さえ飛び出なければ〉という歌詞があてはまる人が、他にいないですからね」
松本「(大滝以外は)みんな実家住みだからね。
僕の家から大滝さんのところに行くのにはテレ朝通りを通るから、今の六本木ヒルズあたりでタクシーを拾ったんです。で、その日は雨が降っていた。今だったらググればすぐに出てくるけど、その日をスージー鈴木さんが〈69年の12月に雨が降った日はこの日しかない!〉って突き止めたの。11月30日に雨が降ってて、こたつで詞を書いて、夜が明けたら〈12月の雨〉だった」
鈴木「あの頃ってさ、詞先の方が多かったよね」
松本「ほとんどそうだね」
鈴木「“花いちもんめ”と“ちぎれ雲”の2つは、同時に詞をもらったんだっけ?」
松本「そんなの覚えてないよ(笑)」
鈴木「でも、ほとんど詞先だったよね」
松本「だって、曲先の作り方なんて知らないんだから(笑)。解散して筒美京平に出会ったら、いきなり楽譜を渡されたからビックリした(笑)」
安田「はじめに大滝さんが書いた曲が松本さんのもとに届けられて、茂さんがそれにギターを合わせたんですよね」
松本「僕は詞を2つ書き残したけど、それに曲が付いたかどうかも知らない。それで細野さんが集合をかけて、なぜか大滝さんは来ていなくて、そのとき茂が初めて参加したんだよね」
鈴木「細野さんの生ギターで“12月の雨の日”を歌ったんです。僕がそれに合わせて弾いたギターのフレーズを、そのまま使うようになったんだよね。あのとき松本さんは当然いたよね?」
松本「いたよ。僕の部屋だからね(笑)」
鈴木「そうだよね。だから、あれが(はっぴいえんど結成の)きっかけだったんだよね」
安田「ちなみに、その時は生ギターでしたか?」
鈴木「僕はエレキギターしか持っていなかったからね」
松本「アンプなんかないよね」
鈴木「だから静かな状態でペンペンって弾いて……」
安田「それで、細野さんも〈これでいける〉と思ったんですかね? だからそれが、はっぴいえんど結成の瞬間ですね」
松本「それは分からないね。細野さんってとっても複雑で、一番長い付き合いだけど、僕はいまだによく理解できないから(笑)。あの時、なんで大滝さんを呼ばなかったんだろうね?」
鈴木「いまだに不思議だよね」
安田「レコーディングでは、大滝さんが歌われたんですもんね」
松本「大滝さんはちゃんとメロディーも覚えているし、すごいよね。当然、当時は譜面なんか書けなかったのにね」
安田「それが69年の11月末と12月のお話ですよね」