BUCK-TICKが2023年12月29日に東京・日本武道館でおこなった〈バクチク現象-2023-〉。ボーカリスト・櫻井敦司の急逝によってキャンセルされた年末恒例の日本武道館公演〈THE DAY IN QUESTION 2023〉に代わって開催されたこのライブは、バンドにとって重要なものになった。終演後には、2024年12月29日(日)に日本武道館公演を開催することを早くも発表。1年後に約束されたライブへの、メンバーの並々ならぬ決意を感じさせた。そんな〈バクチク現象-2023-〉の模様を綴ったレポートが到着したので、下記にお届けする。 *Mikiki編集部
さあ、始めよう──
2023年12月29日、東京・日本武道館公演〈バクチク現象-2023-〉の開催が、この言葉とともに告知された時、下を向いたままだった顔をようやく上げることができた。10月24日のボーカル・櫻井敦司急逝の知らせから3週間後のことだ。バンド史上最大の悲しみに襲われたBUCK-TICKの今後の動きについて、誰もが静観している頃だった。正直なところ、その発表はあまりにも光が強すぎて、思わず目を背けたくなったりもした。一体どんなステージになるのか、ステージの詳細については発表がなかったので、不安を感じた人も少なくなかっただろう。
しかし、そのタイトルにメンバーが並々ならぬ決意を込めたことは想像に容易い。〈バクチク現象〉は、87年のメジャーデビュー前後に行なったライブや、半年間の活動休止を経て復活した89年12月29日東京ドーム公演のタイトルにも使われた、彼らのターニングポイントを象徴する言葉だ。今井寿(ギター)は、34年前の東京ドーム公演と同じ真っ赤な髪色で〈バクチク現象-2023-〉のステージに現れた。その姿を見た瞬間、涙が湧き出る一方で、不安な気持ちはどこかへ吹き飛んでいった。
会場が暗転すると、SEの“THEME OF B-T”にあわせて、力強いクラップが響いた。樋口豊(ベース)、ヤガミ・トール(ドラムス)、星野英彦(ギター)、今井寿と順にステージに登場し、真っ赤に染まったスクリーンに〈バクチク現象〉の文字が出た後、壇上のセンター、いつも櫻井が登場する場所に彼のシルエットが映し出された。「さあ、始めようぜ! BUCK-TICKだ!」、今井の叫びから始まったのは“疾風のブレードランナー”。ステージのセンターにはマイクスタンドではなく、いくつかのライトが埋まっていて、光を放っている。あえてマイクを置いていないせいか、櫻井の歌声はまるで天から降り注いでいるように感じられた。絶望の中の一筋の光のような、きらめきのロックチューンは、「今夜 お前に届けよう 宝物だ 約束だ」と歌う。それはまさにこのステージのこと。手のひらに〈希望〉を握らせてくれたような気がした。
泣き顔でもいいから顔を上げてと言わんばかりに、“独壇場Beauty-R.I.P.-”“Go-Go B-T TRAIN”“GUSTAVE”とアップチューンを連発。今井も星野も今まで以上にアグレッシブなパフォーマンスでステージを扇動していた。“Go-Go B-T TRAIN”で「乗り遅れんな!」、“GUSTAVE”で「ニャオス。今日は楽しんでいってください」と、今井が言葉をかけるたびに、会場のボルテージは上昇していく。
櫻井と今井のツインボーカルによる“FUTURE SONG -未来が通る-”では、樋口が櫻井の動きを真似てみたり、櫻井の歌に重ねるように星野もボーカルをとった。何より驚いたのは、ヤガミのドラムが力強く跳ねる“Boogie Woogie”の頃には、いつの間にか涙も引っ込んで、純粋にステージを楽しんでいる自分がいたことだ。開演した頃は深い悲しみを湛えていたはずのフロアを、ここまで引き上げたバンド力にただただ感服するばかりだった。
そんな空気を一変させて、櫻井の不在を悲しいほど鮮やかに映したのは、昨年8月に逝去したISSAY(DER ZIBET)と櫻井がツインボーカルをとる“愛しのロック・スター”から始まった中盤戦。“愛しのロック・スター”では、スクリーンに在りし日の2人のライブ映像が映ると、耐えきれずすすり泣く声も大きくなった。続いて今井のオリエンタルなインタールードから始まった“さくら”では、スクリーンと武道館の天井にも浮かんだ桜の花が舞い散る様子が、なんとも美しくて悲しみを倍増させた。さらに、まるで葬送曲かのように“Lullaby-III”“ROMANCE”と、櫻井の耽美な世界観を強く打ち出したナンバーを続けて聴かせた。