BUCK-TICKの『スブロサ SUBROSA』のリリースを記念して、タワーレコードではフリーマガジン「TOWER PLUS+ BUCK-TICK 特別号」を発行! ここでは中面に掲載されたレビューを掲載いたします。「TOWER PLUS+」はタワーレコード全店にて配布中です!※ *TOWER PLUS+編集部
BUCK-TICKが4人体制による初のアルバム『スブロサ SUBROSA』をリリースした。そこにはバンドとしての更なる進化が詰め込まれている。櫻井敦司を失いながらも前に進むことを決断した4人の決意が見え隠れする楽曲をメンバーの声と共にレビューしていこう。
櫻井敦司を失い、ゼロから作った「ある意味ファーストアルバム」
宇宙のビッグバンに始まり、生命は誕生した。このたとえが正しいのかどうかはわからないが、それほどの衝撃だった。結成して40年近く、長い歳月をかけて形成されたBUCK-TICKという宇宙の中で、ボーカリスト・櫻井敦司という絶対的な存在を失ったという事実は、すべてをゼロにしてしまうような、ビッグバンに匹敵するほどの衝撃だった。それにより粉々になって飛び散ってしまった無数の心の欠片を、4人になったBUCK-TICKは、塵芥までも取りこぼさず、掬い取ってくれようとしているのではないか。それがBUCK-TICKのニューアルバム『スブロサ SUBROSA』の1曲目を飾る、“百万那由多ノ塵SCUM”を聴いた率直な感想だ。〈俺たちは独りじゃない〉――今井寿の第一声は、温かで優しくて力強い。ゆっくりとゆっくりと、深手を負った心に歩みを重ねるようなテンポで。
2023年12月29日の日本武道館公演で、「来年BUCK-TICKは新曲を作って、アルバムを作ります。最新が最高のBUCK-TICKなので、期待していてください」と明言した今井は、すでに新しい楽曲制作に取り掛かっていた。「ある意味ファーストアルバムみたいなところもあるから、作詞作曲もレコーディングも面白かった」と振り返る今井。〈最後に櫻井のボーカルが入ればBUCK-TICKになる〉という長年の定義が通用しなくなった今、〈BUCK-TICKらしさ〉をどこに見出すことができるのだろうか。今後のボーカルは、作曲者である今井と星野英彦が担当する。未知なるものに対して期待と不安を抱いたのは、リスナーのみならずメンバーも同じだっただろう。
実験と革新で幅を広げた「何でもできる状態」
今作での楽曲制作における変化について、今井は「今までも好き勝手にやってきたと思っていたんだけど、〈櫻井敦司というフロントマンが歌う〉というところに、無意識にいってたんだなあと気づきました」と語り、もう1人の作曲者である星野もまた、「歌のキーやメロディの雰囲気など、今までは櫻井さんを想定した雰囲気で作っていたけれど、ある程度自分のボーカルスタイルに合わせたものを想定しながら作っていったので、今はまた違う観点で作り始めているという感じですね」と言う。
これまでもBUCK-TICKは、さまざまな実験を結実させた革新的なアルバムを作ってきた。今作では、4人のポテンシャルを最大限に活かした新しい試みで、ジャンルの幅をさらに広げた。
たとえばタイトル曲の“スブロサ SUBROSA”は今井のラップがのるインダストリアルなEDMだし、“ガブリエルのラッパ”はシアトリカルな要素を取り入れた三連符フロウのヒップホップだ。“Rezisto”はヘヴィなトリップホップ、言葉までリズムとして取り込んだ“TIKI TIKI BOOM”、アフロビートを軸にした“冥王星で死ね”ではヤガミ・トールがティンバレスを用い、奥行きの深いサウンドを作った。
また、いわゆるJ-POPや歌謡曲にみられる王道の楽式とは違う楽曲構成を目指した。たとえば星野作曲の“プシュケー - PSYCHE -”は、Aメロとサビのリフレインが印象的だし、同じく星野作曲の“From Now On”もインストと歌の2部構成のような作りになっている。「今までのような固定された曲ではなく、ちょっと違うところでいこうということで自分の中で崩していったので、そういう構成になったんだと思います」と意図的であったことを語る星野。
“神経質な階段”“ストレリチア”“海月”といったインストゥルメンタルが3曲収録されたのも、今までにない試みだった。「インストの曲は昔は考えられなかった。今回は打ち込みだけじゃなくて、ちゃんとメンバーが演奏しているインスト(“ストレリチア”)も入っていて。今は本当に何でもできる状態なんだろうなと思います」と樋口豊は語っていた。