池辺晋一郎プロデュース、シリーズを締めくくる第5回「1933年生まれの作曲家たち」

 池辺晋一郎が愛情込めて曰く「目の上のタンコブ」のように密集した1929年から1933年生まれの作曲家たち。将来への志を立てる思春期が戦争、価値観の大転換が瞬間的に起こった終戦時にあたった彼らは個人の意思で立身を決意する。この決意が日本各所で発生して〈日本作曲家団塊の世代〉が出現した。その世代の作品を5年にわたって紹介した〈日本の現代音楽、創作の軌跡〉シリーズがいよいよ最終回を迎える。池辺にとって本シリーズは豊饒な遺産を後世へ伝えることとともに、先達、師匠筋たちへのオマージュだったはずだ。池辺の意図は見事に成功したと思う。

 第1回は湯浅譲二、矢代秋雄、松村禎三、間宮芳生、黛敏郎といった著名で、比較的大編成作品が知られた作曲家の作品が取り上げられた。会場がリサイタルホールゆえ、紹介される豊饒な遺産は室内楽や器楽曲がメインとなるが、一般的なファンには〈団塊の世代〉の知られざる〈顔〉を知らしめることにもつながった。そして第2回以降からは知名度はそれほど高くない作曲家(例えば〈実験工房〉で名前は知っている鈴木博義など)を織り交ぜ、団塊の世代の厚みと広汎な活動を知らしめた。

 本シリーズの魅力、それは個人や世代で異なるはずだ。〈団塊の世代〉作曲家や池辺と同世代は、その時代の熱量を思い出す。その下の世代は思春期頃に映画やテレビで体験した近未来サウンドを再び見つけ出したであろう。さらに下の世代になると〈団塊の世代〉の感覚のクールさやスコアに書かれた音の密度、凝縮度の高さ、さらには作風が全く古さを感じさせない点にも惹かれただろう。

 〈団塊の世代〉が示した作品に個人の美学を投入する熱量の高さ、これはこんにち生きる世代が今こそ見習うべき発想だと思う。回を重ねる度にそういう思いが筆者に膨らんだ。

 もう一つ特筆すべきは出演者。本シリーズでの演奏は作品の初演時はもちろん、作曲家が創作時の想定を上回る出来栄えだったはずだ。振り返れば本シリーズ、20代から40代の演奏家が多く担当した。1950年代から70年代の〈団塊の世代〉の作品が多く取り上げられたが、思えば〈知・情・意〉全ての要素が生涯でピークとなる頃合いである者同士が時代を超えて対峙していたわけだ。

 こういった想像力を働かせられたことも、シリーズの遺産。なお第5回で筆者の注目作曲家は今井重幸と辻井英世。演奏家は2019年の〈B→C〉で才覚を発揮した藤元高輝である。

 


LIVE INFORMATION
池辺晋一郎 プロデュース
日本の現代音楽、創作の軌跡
第5回「1933年生まれの作曲家たち」

2023年7月12日(水)東京オペラシティ リサイタルホール
開演:19:00
出演:池辺晋一郎(プロデュース/お話)/成田達輝/中澤沙央里(ヴァイオリン)/安達真理(ヴィオラ)/辻本 玲(チェロ)/本山耀佑(コントラバス)/高木綾子(フルート)/田中香織(クラリネット)/福士マリ子(ファゴット)/竹島悟史(パーカッション)/塚越慎子(マリンバ)/中野翔太(ピアノ)/高野麗音(ハープ)/藤元高輝(ギター/指揮)

■曲目
今井重幸:青峰悠映 ─序奏と田園舞─(1989/2006)
辻井英世:ナフタ(1967)
三善晃:ノクチュルヌ(1973)
服部公一:古 新羅人 讃(1985)
神良聰夫:弦楽四重奏のための3つの小品(1963)
原博:ピアノ・ソナタ 第3番(1971)
一柳慧:リカレンス(1977~78)

https://www.operacity.jp/concert/calendar/detail.php?id=15710