〈昭和一桁〉世代は、目の前を走る憧れの存在――池辺晋一郎プロデュースで日本の現代音楽家たちが切り開いてきた世界を〈知る・聴く・学ぶ〉

 生誕90年の作曲家を特集してきた、池辺晋一郎プロデュース〈日本の現代音楽、創作の軌跡〉。第4回目は1932(昭和7)年生まれ。企画者の池辺にとって〈昭和一桁〉と呼ばれるジェネレーションは、自分の目の前を走る憧れの先輩であり、その仕事に触れ、時にすれ違い、現場を見てきた。1932年生まれとすると、池辺が藝大で学んでいた頃には30代前半。彼らは、演奏会用作品だけでなく、映画・放送用作品や、童謡など、メディアの進歩にあわせて幅広い創作を繰り広げていた。時代の証人であり、演奏会のナビゲーターでもある池辺がどんな思いでセレクトしたかは当日の司会で語られるだろうが、簡単な紹介を記す。

 山本直純は、“マグマ大使”“8時だョ!全員集合”“男はつらいよ”“一年生になったら”、作詞・作曲の両方を担当した“こぶたぬきつねこ”など数々の作品が知られ、指揮活動でも名演を残し、テレビ番組の司会もこなした。適当に鳴らしたピアノのクラスターをすべて聞き取る程の絶対音感の持ち主で、古今東西の楽曲を切り貼り編集した“ヘンペラー”などの冗談音楽におけるセンスも傑出していた。チェロとピアノのための“いとしのブラックマリー”は亡くなる前年の作。

 小林亜星は、“この木なんの木”“どこまでも行こう”“パッとさいでりあ”“チェルシー”“ガッチャマン”“魔法使いサリー”“北の宿から”“ピンポンパン体操”など、CM、アニメ、演歌、体操など幅広いジャンルで商業音楽を中心に活躍した。俳優デビューとなったドラマ「寺内貫太郎一家」では、自慢の長髪を丸坊主にして挑んだほど。業界の発展にも貢献しておりJASRACで作曲家の権利を訴え、日本作曲家協議会の会長として数々の事業もおこなった。“タンゴ・ハポネス”は、晩年に作った叙情豊かなヴァイオリン曲。

 湯山昭は、童謡“おはなしゆびさん”や子供のためのピアノ曲集“お菓子の世界”も知られる。“十人の奏者のためのセレナード”などは黛敏郎の“喜遊曲”に連なる池内友次郎門下のお洒落で洗練されたサウンドを継承していて痛快。今回取り上げるサックスとマリンバのための“ディヴェルティメント”は、この楽器編成のために作られた曲でも定番の作品で、数々の腕利きの奏者が取り上げてきた。

 端山貢明は、藝大在学中から数理的なアプローチで作曲に取り組んだ異色の存在であり、給費留学生としてパリ音楽院でメシアンに師事。“ピアノ・ソナタ”は帰国後すぐの作品である。その後のピアノ協奏曲や打楽器協奏曲など、アグレッシヴな音響も魅力的だが、1978年に作曲活動を停止して、コンピュータ・アートへ取り組んだ。門下には、後に「題名のない音楽会」のプロデューサーとなった大石泰がいる。

 丹波明は、端山と同じく、藝大を経て給費留学生としてパリ音楽院でメシアンに学んだが、日本に帰国した端山に対して、丹波は現在に至るまでフランスに長く住み、能や序破急の美学など、日本の伝統音楽の研究を行い、自作にも反映させた。縦の線から解放された時間、瞬間的に立ち現れる能の時間などに着目して、音組織の細胞を取り扱い、躍動的で生命力あふれる創作を行った。ハープと弦楽四重奏による“クインクエ”は、丹波の時間の捉え方と、旋律操作による細胞構造を聴くのにも適した作品である。

 仲俣申喜男は、東京大学文学部を卒業。清瀬保二や間宮芳生に学び、岩波映画に勤務。その後、メシアンにも学んだ。1968年には浄瑠璃“税務署撃退法”という変わった曲も作ったが、本流は鳥の歌の研究をテーマにした“3本の尺八のためのスペース”など。“悲しみの鳥”は、清瀬保二門下の先輩の武満徹への追悼として作曲された。

 福島雄次郎は、熊本で生まれ、箕作秋吉に学び、鹿児島で暮らした作曲家だが、九州・奄美・沖縄など南日本の旋律を研究して、自作に取り入れた。合唱曲や、管弦楽のための“ヤポネシア組曲”などが知られるが、ヴァイオリンとピアノのための“詩曲”は、ヴァイオリン協奏曲でTBS賞を受賞した後の意欲作である。

 


LIVE INFORMATION
池辺晋一郎プロデュース 日本の現代音楽、創作の軌跡
第4回「1932年生まれの作曲家たち」

2022年10月7日(金)東京・初台 東京オペラシティ リサイタルホール
開演:19:00
出演:池辺晋一郎(プロデュース/お話)/中川賢一(ピアノ)/尾池亜美、須山暢大(ヴァイオリン)/安達真理(ヴィオラ)/加藤文枝(チェロ)/上野由恵(フルート)/平野公崇(サックス)/塚越慎子(マリンバ)/新野将之(パーカッション)/篠﨑和子(ハープ)

■曲目
端山貢明:ピアノ・ソナタ(1960)
福島雄次郎:詩曲(1966)
山本直純:いとしのブラックマリー(2001)(山本祐ノ介 校訂)
湯山昭:ディヴェルティメント(1968)
小林亜星:タンゴ・ハポネス(2005)
仲俣申喜男:悲しみの鳥(1996/2003)
丹波明:クインクエ(1975)

https://www.operacity.jp/concert/calendar/detail.php?id=15026