待望の来日公演を控えるノウワー。その折衷的なサウンドをルイス・コールと創造する彼女は、色鮮やかに音を重ねながら、安らぎと愛に溢れた世界へと聴き手を誘う……

 今年3月、実に6年ぶりとなる来日公演を行うLAのデュオ、ノウワー。ドラムをはじめ、さまざまな楽器を弾きこなすマルチ・インストゥルメンタリストにしてプロデューサーでもあるルイス・コールと、ヴォーカリストのジェネヴィーヴ・アルターディによる同ユニットは、折衷的なエレクトリック・ファンクをEDMに触発されたビッグルーム・サウンドとして鳴らす独創的な作風を確立している。コンポーザー/アレンジャーとしての精緻なスキルをソロ名義では際立たせているルイス・コール同様、ジェネヴィーヴもまた、このたび日本独自でCD化されるソロ最新作『Forever Forever』において、ノウワーとは表情が異なるパーソナルな表現世界を発展させた。

GENEVIEVE ARTADI 『Forever Forever』 Brainfeeder(2023)

 10代で参加したポリーンでの活動を通じ、マッシヴ・アタックやポーティスヘッドをはじめとするエレクトロニック・ミュージックに触れたジェネヴィーヴは、大学で音楽理論を学ぶと共に、コーラス・グループでジャズのヴォイシングやヴォーカル・アレンジメントのスキルを磨いた。その後、2009年に出会ったルイス・コールとノウワーとして活動を行いながら、2015年にセルフ・リリースのアルバム『Genevieve Lalala』、2020年にはブレインフィーダーから2作目『Dizzy Strange Summer』を発表。この2作では、エレクトロ・パンク然とした性急な楽曲からチルなダウンテンポ、ラフな4つ打ちまで思い付くままにアイデアを具現化したかのようなビート、聴き手の想定を裏切って展開されるヴォーカル~コーラスワークに、知性と野性が共存する彼女の才能を宿している。

 そして、3作目となる昨年の『Forever Forever』では、デスクトップでの制作が主体であったこれまでの作品から一転、盟友のルイス・コール(ドラムス)、プライヴェートのパートナーでもあるペドロ・マルチンス(ギター)をはじめ、ダニエル・サンシャイン(ドラムス)、チキータ・マジック(シンセサイザー/ベース)、クリス・フィッシュマン(ピアノ)といった旧知のミュージシャンたちを迎え、メキシコのエル・デシエルト・スタジオで合宿レコーディングを敢行。収録曲の半数がスウェーデンのノーボッテン・ビッグ・バンドのために書いた楽曲だったこともあってか、本作はパートの役割が明確化されており、彼女のプロデューサー、アレンジャーとして才能が光っている。

 楽曲の主軸を担う一筋縄ではいかないコード進行とメロディーの展開、変拍子に象徴される奔放なリズム・アプローチ。そして、音楽理論に裏打ちされた精緻なヴォーカルや歌唱の重なりに表れているジェネヴィーヴの個性は揺るぎない。しかし、ともすれば難解になってしまいそうな楽曲は、生演奏のグルーヴとペドロ・マルチンスに触発されたというブラジル音楽の影響が色濃く反映されていることもあってか、ステレオラブの『Dots And Loops』や『Cobra And Phase Group Play Voltage In The Milky Night』がそうであるように、明るく爽やかに響く。

 そして、その心地良さは、本作における歌詞のテーマである〈愛〉とも共鳴している。マインドフルネスの父と言われるベトナムの僧侶、ティック・ナット・ハンやモダン・ヨガの師と評されるラム・ダスをはじめ、エックハルト・トールやジッドゥ・クリシュナムルティといった精神世界分野の指導者たちの著作や映像作品に触発されたという言葉の数々は、リーヴィングからリリースされているアンビエント/ニューエイジ・サウンドを想起させる浮遊感に溢れた音のテクスチャーと一体となり、音楽がもたらす心の余白を意識させる。その余白を噛みしめながら、聴き手の解釈次第で様相を変える本作を自由に楽しみたい。

左から、ジェネヴィーヴ・アルターディの2020年作『Dizzy Strange Summer』(Brainfeeder)、ノウワーの2023年作『Knower Forever』(Knower)、ペドロ・マルチンスの2023年作『Rádio Mistério』(Heartcore/MOCLOUD)