PR
コラム

ルイス・コール(Louis Cole)『Quality Over Opinion』超絶技巧にしてマルチなセンスと演奏力の持ち主が完成させた4年ぶりのアルバム

©Richard Thompson

超絶技巧にしてマルチなセンスと演奏力の持ち主が4年ぶりのアルバムを完成――20篇のストーリーは稀代の才人ならではの高品質な閃きに満ち溢れている!

 Quality Over Quantity(量より質)という言い回しはよく耳にするが、『Quality Over Opinion』とはどういうことなのか。昨今の音楽作品(には限らないが……)をめぐる状況としては、語られやすい作品が奥から裏までとことん語られる一方、そうでなければまるで存在しないかのように流されてしまいがちだったりもするわけだが、作り手にしてみればそうしたオピニオンの数よりも作品そのものの質が重要だということなのだろうか。その真意はともかく、ルイス・コールが自身の作品に対して自信たっぷりなのは間違いない。LAを拠点に超絶技巧ドラマーとして脚光を浴び、己のDIY美学を貫きながらシンガー・ソングライター的な作品作りに移行してきた彼は、ブレインフィーダー入りして放った3作目『Time』(2018年)以降はレーベルの信頼感も相まってその名をさらに広く世に知らしめ、星野源がラジオで音源をオンエアするなどして支持をジワジワ拡大してきた。今回リリースされた4年ぶりのニュー・アルバム『Quality Over Opinion』は、ルイスの存在感をさらに高めることになるだろう。

LOUIS COLE 『Quality Over Opinion』 Brainfeeder/BEAT(2022)

 「このアルバムで表現しているのは、できる限りパワフルで心地良い音楽を作ろうとベストを尽くしたこと。自分自身にとっても他の人々に向けてもね」。

 今作はルイスの自宅スタジオで作曲/演奏/制作が進められ、ドラムはもちろん、シンセやピアノ、ベース、ギター、そしてヴォーカルと大半のパートを彼自身が担っている。資料によると全20曲の中には過去のアイデアやマテリアルから発展させたトラックもあるようで、そうなったのもパンデミックによってスタジオで過ごす時間が増えた結果のようだ。それゆえにアルバムはトータルなストーリーというより、一曲ずつが独立したエピソードを持つ楽曲集という位置付けになるようだ。

 「このアルバムにはひと続きの物語はない。それぞれの楽曲で僕の人生のある一瞬一瞬を表現している。インスピレーションを受けたのは、喜び、痛み、そして周りの人々の人生から何かを引き出すという絶え間ない使命感だ」。

 そのようにパーソナルな側面も強いと思しき楽曲の下地をルイスが構築した後、馴染み深い面々もゲスト参加。ノウワーで活動を共にするジェネヴィーヴ・アルターディ(彼女もソロでブレインフィーダー入りし、一昨年に『Dizzy Strange Summer』をリリースした)が“Don’t Care”で歌っているのをはじめ、クラウン・コアの相棒でもある盟友サム・ゲンデル(サックス)をアタックの強いロッキッシュなフュージョン“Bitches”に迎え、クリス・フィッシュマン(ピアノ/ローズ)とニーボディのネイト・ウッド(ベース)を従えてメロウな陽だまりソウル“Message”を披露し、マーロン・マッキーにヴォーカルを委ねた“Let Me Snack”では奇妙に転換を繰り返すリズムの舵取りに専念するなど、コラボレーションの在り方もさまざま。さらに“When”のアウトロ部分にはカート・ローゼンウィンケルのギターをフィーチャーしている。

 そうした個々のコラボ曲も注目ポイントではあろうが、何より本作を強く印象付けるのは作品全体のとりとめのなさそのものかもしれない。ジャジーなギターで牽引する“Not Needed Anymore”のような小品、“Forgetting”や“Laughing In Her Sleep”のようにソフト・ロック風のマイルドな歌もの、ホーンを伴って小気味良く疾走するベッドルーム・ファンク“Park Your Car On My Face”などなど、意味を置き去りにして断片的な残像が目まぐるしく移り変わっていく。そのスピード感が構築美とはまた違う美しさに溢れていて実におもしろいし、首尾一貫した名作とは異なる聴き応えを生み出しているのだ。

 なお、今年5月にはサンダーキャットの来日公演にドラマーとして帯同していたルイスだが、今回の『Quality Over Opinion』リリースを受けて12月には東名阪の3公演による来日ツアーも開催が決定となった。自身のバンドに加え、日本で選りすぐられたホーン・セクションを伴ってのビッグバンド編成によるパフォーマンスとのことで、今作の収録曲がどのような形で再現されるかも実に興味深い。

左から、ルイス・コールの2018年作『Time』、ジェネヴィーヴ・アルターディの2020年作『Dizzy Strange Summer』、サンダーキャットの2020年作『It Is What It Is』(すべてBrainfeeder)、ニーボディの2019年作『Chapters』(Edition)、11月23日にリリースされるサム・ゲンデルのニュー・アルバム『blueblue』(Leaving/ASTROLLAGE)、カート・ローゼンウィンケル・トリオの2020年作『Angels Around』(Heartcore)