
新時代のジャズ・ガイド〈Jazz The New Chapter〉で旋風を巻き起こした気鋭の音楽評論家・柳樂光隆が、人種/国籍/ジャンルなどの垣根を越境し、新たな現在進行形の音楽をクリエイトしようとしているミュージシャンに迫るインタヴュー連載。登場するのは、柳樂氏が日本人を中心に独自にセレクト/取材する〈いまもっとも気になる音楽家〉たち。第1回は、NYで現地の若手トップ・ミュージシャンたちと活動してきたドラマー・桃井裕範の国内初インタヴュー。今回はその前編をお届けする。 ※Mikiki編集部
日本ではほぼ無名ながら突如Okehからリリースされたアルバム『Golden Age』が高い評価を受けたギタリストのニア・フェルダーや、昨年の来日公演が大成功を収めたティグラン・ハマシアンのトリオのベーシストであるサム・ミナイエなど、ジャズ・シーン注目の新鋭たちと共演している日本人ドラマーがいると話題になったのがつい最近のこと。そのドラマーこそ、桃井裕範だった。今年から活動の拠点を日本に移し、アルバム『Liquid Knots』を国内リリースするタイミングで桃井にNYでの活動のこと、そして彼自身のことについて訊くことができた。ドラマーとしてだけでなく、コンポーザーとしても活動する彼の音楽性に迫った国内初のインタヴューだ。
――桃井さんはNYでいろんなミュージシャンと共演されてましたよね。アルバム『Liquid Knots』のメンバーはNYの敏腕たちですが、どんな繋がりなんですか?
「付き合いが古いのはピアノのジュリアン・ショア※で、彼は友達のセッションで知り合いました。彼のコンピング、伴奏が好きなんです。サム・ミナイエはジュリアンの知り合いですね。チャド・レフコウィッツ・ブラウン※は別の友達の紹介かな。ギターはニア・フェルダー※がすぐに浮かびましたね。彼もジュリアンと同じでソロをしていないときが一番好きで、彼がちょっと弾いただけで曲が全然違うものになる。彼の音の選び方が好きだったんです。このアルバムではコンポーザー目線でメンバーも選んだのかもしれないですね」
※ジュリアン・ショア(JULIAN SHORE)
ロードアイランド州ナラガンセット出身のジャズ・ピアニスト。すでにカート・ローゼンウィンケル(ギター)やグレッチェン・パーラト(ヴォーカル)らと共演し、高い評価を得ている気鋭の若手。
※チャド・レフコウィッツ・ブラウン(CHAD LEFKOWITZ-BROWN)
若手注目株のサックス奏者。小曽根真トリオのドラマーでもある名手クラレンス・ペンのバンドなどでNYを中心に活躍。
※ニア・フェルダー(NIR FELDER)
NYを中心に活動する82年生まれのギタリスト。13歳のときにスティーヴィー・レイ・ヴォーンに憧れて手に入れたメキシコ製ストラトキャスターをいまだに使い続けているとのこと。日本ではほぼ無名の状態でリリースした2014年作『Golden Age』は、現代ジャズの洗練とロックの流儀を融合した鮮烈なサウンドで、若い世代を中心に支持を得た。
――こんな一流のメンバーたちとはどういうヴェニュー(ライブハウス)で演奏していたんですか?
「多かったのはシェイプシフターですね。オープンして間もない頃にやっていたので、そのころはやりやすかったんですよ。(オーナーの)マシュー・ギャリソン※とかもその辺をうろうろしていたりしましたね。バンドのメンバーはジャズギャラリーとか、スモールズでもよくやってましたね」
※マシュー・ギャリソン(MATTHEW GARRISON)
70年NY生まれ。主にエレキ・ベースを用いたグルーヴィーな演奏を得意とする現代ジャズ/フュージョン系ベーシスト。ハービー・ハンコックやジョー・ザヴィヌル(ともにピアノ/キーボード)、パット・メセニー(ギター)のほか、ジョニ・ミッチェルやホイットニー・ヒューストンとも共演。父親はジョン・コルトレーン(サックス)の〈黄金のカルテット〉のベーシストとして知られるジミー・ギャリソン。
――シェイプシフターの特徴ってどんな感じですか?
「ヴィレッジ・ヴァンガードやブルーノートみたいな大物がでる感じの場所とローカルなバーの中間がシェイプシフターだったと思います。ジャック・ディジョネット※みたいな大物もたまに出てたりするんですけど、僕らみたいな知名度の低い人たちも出られる。NYのミュージシャンはそういう箱を待っていたんだと思いますね」
※ジャック・ディジョネット(JACK DeJOHNETTE)
マイルス・デイヴィス・グループのドラマーとしてエレクトリック期の歴史的名盤『Bitches Brew』、『On The Corner』などにも参加した超大物。キース・ジャレット(ピアノ)、ゲイリー・ピーコック(ベース)との〈スタンダード・トリオ〉などでもお馴染み。
