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静かに燃えるサウンド

――北欧にはカンテレという、金属弦の箏のような民族楽器もありますから、ヤーミンはむしろ親近感を覚えたかもしれませんね……と、中島さんのバックグラウンドについて伺ったところで、新しく発表になる2枚目のリーダーアルバム『ミラー・オブ・ザ・マインド』ですが、2018年発表の1枚目『ピオッジャ』に比べて、より空間を生かすような方向性に振っているという印象を受けました。

「『ピオッジャ』の時には、プロデュースしていただいたヴァイブラフォニストの赤松敏弘さんにトータルな方向性も決めていただいいていましたが、『ミラー・オブ・ザ・マインド』はセルフプロデュース作品で、空間を生かすというか、もともと頭の中で鳴っていたラルフ・タウナーの『Solstice』みたいな方向性に行ったのかなと思っています」

――アンサンブルのコアになっているトリオの望月慎一郎さんや橋本学さんとも、その方向性は共有しているんですか。

「ええ、みんなバックボーンが同じところもあるので、あえて言葉に出して言わなくても上手く通じている感じです。望月君はファーストアルバム『Visionary』を聴いた時から彼の持つ音楽性に全幅の信頼を置いていますし、橋本さんも守備範囲は広いですがECMオタクでもありますし(笑)」

――『Solstice』といえば、アルバム1曲目の“Zero Jiba”の中盤で、シンバルのレガートが入ってくるあたりは、ヨン・クリステンセンっぽい感じというか……。

「あれは橋本さんの曲ですが、最初はシンバルのレガートが入ってくる部分からいきなり始まっていたんです。それで望月君が、〈その展開に至るまでには、トンネルを抜けてそこにたどり着くみたいなイメージがあるんじゃない?〉と言って、前奏の部分を書いてくれたんです」

――その意図は完全に伝わると思います。空間を生かすということと関連するかもしれませんが、『ピオッジャ』の“How Solty is the Ocean”や“Kagome”のようにアップテンポで盛り上がるような曲が、『ミラー・オブ・ザ・マインド』には1曲も入っていないというのも、このアルバムの特徴のようですね。

「敢えて狙ったわけではないんですが、コロナ禍があってみんなが引き籠っている状態から解放されて、音を出したいという欲求が満たされつつある状況にあって、最初からウキウキしたような曲は作れなかったということもあると思います。今回録音した曲は以前から書き溜めていたものではなく、レコーディングの話が決まってから書き下ろしたものなので、近々の情勢や生活がより強く反映されたんじゃないでしょうか。

それと、今回オーベ・インゲマールソンさんにゲスト参加していただいたんですが、ECMのマルチン・ボシレフスキの『Spark Of Life』というアルバムに参加しているヨアキム・ミルダーの、ワーッと盛り上がるんじゃなくて静かに燃えるみたいなサウンドが好きで頭の中にあって、オーベさんもそれに近い感じのサウンドを出してくれるんじゃないかなと思っていました。

僕としても、さっきお話ししたように、ワーッと盛り上がるんじゃなく、コロナ禍などのせいで溜まっていたものを静かに、徐々に出していきたい、それは別に、悪いものを吐き出すというんじゃなく、自分たちのサウンドを明るい方に向かってジワジワと放って行きたいという気持ちがあったんです」

 

心象風景を映すアルバム

――リーダー作ということで、中島さんのオリジナルも4曲収録されていますが、作曲はどのようにしていますか。決まった方法というのはあるのでしょうか。

「家にはピアノがあるので、ちょっと弾くこともあるんですが、基本的にベース以外の楽器はほとんど弾けないので、だいたいはベースで弾いてスマホに録音しておいたメロディーのアイディアやモティーフを、後から聴き返してつなげて曲にするという感じです。

僕の曲のタイトルについては、“Dawn”は〈コロナ明け〉という意味合いで、“Mirror of the Mind”は『心象風景』というライル・メイズのアルバムみたいに、まさに心象風景が見えるようなサウンドを作りたいというイメージがそのままタイトルになった感じです。“Mañana”はスペイン語の〈明日〉という意味で、後ろから引っ張られるものがありつつも前進して行きたいという気持ちで付けました。“Dance with Space People”はベースのリズムパターンから始まる曲で、実を言うとE.S.T.のとある曲に近いテイストを狙っていたんですが、作り始めたら宇宙人が手をつないでダンスをしているイメージが浮かんで、そこから抜け出せなくなっちゃって(笑)、それがそのままタイトルになりました」

――あと、アルバムのカバーも、モノクロ写真を使った近年のECMのデザインをほうふつとさせるのですが……。

『ミラー・オブ・ザ・マインド』ジャケット

「いや、狙ったわけではないんです(笑)。好きなことは好きなので、どうしてもそっちに寄っちゃうとは思うんですけれどね。あの写真は羽山浩行さんの作品で、もともと水面にいろんな色が映り込んだカラーだったんですが、デザイナーの和田陽介さんにアルバムのサウンドと音楽の方向性を伝えて、デザインが戻ってきたらああなっていたという……。もちろん、『ミラー・オブ・ザ・マインド』というタイトルにもしっくりとくるので採用したんですが、結果としてなんか、すごくECMっぽくなっちゃいましたね(笑)。

あと、これは橋本さんの曲ですが、“Yashima”とは長野県の霧ヶ峰高原にある八島湿原のことで、水のイメージを感じますね。彼も何年か前に東京から長野県に移住していたので、信州をモティーフにした曲を作ってくれたんです。この曲はオーベさんの参加が決まる前に出来ていましたが、彼に入ってもらえばドンピシャじゃないかなと思ったら、その通りになりましたね」