さまざまなエッセンスが溶けあう青々としたポップスの庭へようこそ

soraya 『soraya』 B.J.L. X/AWDR/LR2(2024)

 なんと眺めのいい景色――両者ともにジャズ・フィールドで活躍中で、ソロでは小曽根真プロデュースによるアルバムをリリースしているピアニストの壷阪健登とヴォーカリスト/ベーシストの石川紅奈によるsorayaのファースト・アルバム『soraya』を聴いた印象をひと言で表わすとしたらこれに尽きる。本ユニットが理想とする音楽像はいたって明瞭。70sシンガー・ソングライターの多くが志向した様々なエッセンスが溶けあう芳醇なアコースティック・サウンド、またそういった面々に感銘を受けた同時代のジャパニーズ・ポップス、これらをイメージの源泉とする音作りが随所で見られ、矢野顕子や大貫妙子につうじる石川の暖色系ヴォーカルが光る“ルーシー”、荒井由実ソング特有の色彩感覚をみごと移植することに成功した“レコード”などは顕著な例といえよう。マリンバのとぼけた響きがコロコロと転がり、郷愁ムードを醸すストリングスがユラユラと揺れる“ゆうとぴあ”もまた彼らが抱く憧憬やシンパシーが強いコントラストを放つ1曲で、壷阪のソロ・シングル“港にて”から連なる、トロピカル三部作の頃の細野晴臣がモチーフとなった長閑なエキゾ・ポップが展開する。と書いてしまうとなんだか懐古趣味まる出しな感じに聞こえるかもしれないが、さにあらず。ふだんジャズ・フィールドに身を置き、日々雑多なジャンルと対峙しているだろう両者の音楽センスがつねに活発な働きを果たしていて、メロディ、ハーモニー、リズムなどの構築面で試される新奇的なアプローチは本作の魅力をめぐる重要ポイントだと断言できる。リズム・ボックスを用いて愉快な言葉遊び&ラップを披露する“BAKU”、ミルトン・ナシメントのメロディに流れる叙情性をオリエンタル風味で調理したような“耳を澄ませて”など、ソウル、ジャズ、ブラジリアンなどの要素もブレンドされた青々としたこの音の庭はとにかく聴き心地も寝心地もバツグン。PUFFY/スピッツの“愛のしるし”カヴァーがまたチャーミングで最高なんだ。