チェンバー・ジャズで、鮮やかに甦るリリ・ブーランジェ

 かつて初期のスウィング・ジャズは、その当時の斬新なスタイルで、20世紀前半のフランスの作曲家たちに影響を与えた。そのフランスで生まれた音楽が、今度はアメリカの次の世代のジャズ・アーティストたちに影響を及ぼしている。

 ニューヨークを拠点にビッグ・バンドから、小編成、ブラジリアン・ミュージックと、多彩な活動を繰り広げているライアン・ケバリー(トロンボーン)と、ヨーロッパで活躍するクラッシックのバックグランドを持つドイツ出身のフランク・ウースタ(ピアノ)と、フランス生まれのヴァンサン・クルトワ(チェロ)は、この大西洋を挟んだ相互影響の21世紀ヴァージョンとして、〈リヴァーソウ〉を2015年に結成した。結成時にはパリ在住のアメリカ人ドラマーのジェフ・バラッドも参加したクァルテットだったが、やがてトリオとなり、モーリス・ラヴェルや、ガブリエル・フォーレ、フランス6人組のダリウス・ミヨー、フランシス・プーランクら、20世紀初頭の作曲家たちにインスパイアされた、オリジナル曲をフィーチャーしたアルバムを、これまで4作リリースしている。

REVERSO 『Shooting Star - Étoile Filante』 Alternate Side(2024)

 本作は、色彩豊かなハーモニーを誇り、同時代の作曲家たちよりも、抽象的なスタイルでフランス音楽に新たな地平を切り拓きながら、1918年に24歳で世を去った早熟の天才作曲家リリ・ブーランジェを、オマージュしている。「ブーランジェの、病弱な健康状態と、第一次世界大戦に影響されたダークなサウンドは、メランコリーがさらに深まりエモーショナルな内的世界へと導く」と、ケバリーは語っている。リリ・ブーランジュの音楽のスピリットとコンセプトは、100年以上の時を経ても、全く色褪せていない。ケバリー、ウースタ、クルトワの3人が、美しいメロディを綴織のように重ね、Shooting Star――流れ星のような一瞬の光芒を放ったリリ・ブーランジェの音楽に、コンテンポラリー・ジャズとクラッシックの分野から、再び大きな輝きを与えている。