1970年代のエドゥ・ロボのスピリットを、現代ブラジリアン・ジャズで再検証したアルバム
ニューヨークを拠点に、ラージ・ジャズ・アンサンブルから小編成まで、精力的な演奏活動を展開しているライアン・ケバリー(トロンボーン)は、サンパウロのブラジル人ジャズ・ピアニストのフィリッペ・シルヴェイラのトリオと結成した〈Collectiv Do Brasil〉とともに録音した『Sonhos Da Esquina』を、昨年リリースした。
同作は、ブラジルのカリスマ・アーティスト、ミルトン・ナシメント(ヴォーカル/ギター)と、トニーニョ・オルタ(ギター/ヴォーカル)をオマージュした作品である。このアルバムのリリース・ギグで、またサンパウロを訪れたケバリーは、〈Collectiv Do Brasil〉のセカンド・アルバムを録音。今回のテーマにセレクトしたのは、MPBムーヴメントの中で数々の佳曲を生み出した、エドゥ・ロボ(ヴォーカル/ギター)である。
ロボの長いキャリアの中でも、1960年代後半から1970年代半ばに生み出された作品群から大きな影響を受けたケバリーは、『Sergio Mendes Presents Lobo』(1970)と『Limite Das Aquas』(1975)からのレパートリーを中心に、ロボの代表曲“Pra Dizer Adeus”に自らとポリーニョ・ヴィセンテ(ドラムス)のオリジナル、『Sergio Mendes Presents Lobo』がビートルズの“Hey Jude”で幕を閉じるのに倣い、“Blackbird”をエンディングに配して構成、稀代のバラード・コンポーザーであるロボに敬意を表し、バラードを多くプレイしている。
ケバリーとシルヴェイラが、ミニマリズムと激しいグルーヴが交錯する絶妙なアレンジを全曲に施した。タイトル・チューンの“Considerando”ではケバリーはアドリブを執らず、ロボのメロディを慈しむように美しく歌い上げている。
本作は、自作以外はまず聴かないというエドゥ・ロボ本人に、聴いてもらうという僥倖に恵まれ、激賞された。成熟したCollectiv Do Brasilのアンサンブルが、エドゥ・ロボの1970年代のスピリットを、ジャズでの再検証に成功した証左だろう。次作への期待も高まる。