21世紀のニューヨーク・ジャズと、ブラジリアン・ミュージックのマリアージュ
ニューヨークのジャズ・シーンで活躍する中堅トロンボーン・プレイヤー、ライアン・ケバリーは、若き日にエリス・レジーナ(ボーカル)の音楽を聴いて以来、ブラジリアン・ミュージックに魅せられてきた。長年中核メンバーを務める、マリア・シュナイダー・オーケストラでも、同じくブラジリアン・ミュージックの信徒であるマリア・シュナイダーがパウロ・モウラ(クラリネット/サックス)に捧げたサンバ“Lembrança”において、ケバリーは素晴らしいソロを執っている。2017年にサンパウロを訪れたケバリーは、彼の地を代表するアーティスト、フィリッペ・シルヴェイラ(ピアノ)、ティアゴ・アルヴェス(ベース)、ポリーニョ・ヴィセンテ(ドラムス)と出逢い、意気投合してギグを共にし、〈Collective Do Brasil〉を結成する。シルヴェイラとヴィセンテは、ブラジルの伝説的ギタリスト、トニーニョ・オルタと17年に渡って共演している。翌年、再びケバリーは、サンパウロを訪れ本作を録音した。
ブラジリアン・ミュージックの伝統をシェアする4人は、ミルトン・ナシメント(ボーカル/ギター)とトニーニョ・オルタをオマージュし、5曲をカヴァー。ケバリーのオリジナルの3曲とブレンドした。オープニングの“Cio Da Terra”はシルヴェイラが、7曲はケバリーのアレンジだ。ケバリーの短いタイトル曲の“Sonhos Da Esquina”をイントロとして、ナシメントの“Clube Da Esquina 2”へ導かれるシークエンスは、鳥肌がたつほど美しい。トニーニョの“Aqui, Oh!”の疾走感は、オリジナルに引けをとらない。人間のヴォイスに近い音域と、アーティキュレーションを持つトロンボーンと、ケバリーの暖かな音色が、ブラジリアン・ミュージックのもつ郷愁や切なさを意味する〈サウダージ〉のフィーリングを、語りかけてくる。それをブラジリアン・トリオが、優しく包み込み応える。まさに文化的背景を超えた現代ジャズと、ブラジリアン・ミュージックのマリアージュが生まれたアルバムである。