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心に耳を傾け、他者と繋がる

 そんな彼女にとって最大の人気曲となったのが、2023年6月発表の“(It Goes Like)Nanana”。ATBによる98年のポップ・トランス“9PM (Till I Come)”をサンプリングした同曲は、パンピンな鍵盤を据えた享楽的なバンガーで昨年のフェスティヴァル・アンセムになった。この曲を発表したタイミングで、アルバムのリリースもアナウンスされ、同年の11月にはミッドテンポのブレイクビーツ・ポップ“I Believe In Love”が続く。この曲でヴォーカルに迎えられたのは、なんとレニー・クラヴィッツ。ベギーは、レニーとの共作について〈彼は私の送ったガイドをすべて無視したの。自分のDNAをこの曲に刻みたかったのね〉と語る。

 本作の幕を開けるのは、ジャケットで彼女が付けているイヤリングを制作したデンマーク人アーティスト、オラファー・エリアソンの詩をペギーがアレンジして朗読したYour Art”。〈自分の心と対話すること〉を謳ったこの曲は、セルフケアやセルフリスペクトの大切さを発しており、そのうえで他者の言葉に耳を傾けることは自分を知る第一歩だと訴える。〈聞くこと〉が本作の主題であることは、タイトルやアートワークからも明白だ。

 前述の“(It Goes Like) Nanana”を筆頭に、ストリクトリー・リズム系のNYハウス・マナーな“Back To One”、ダーティーな音の質感が初期の作風を思わせる“Lobster Telephone”、ペギーが〈もし90年代の韓国にレイヴ・カルチャーが存在していたらそこで鳴っていてほしい〉と語るユーロダンス調の“I Go”など4つ打ちの楽曲を要所要所に配している『I Hear You』。だが、いわゆるハウス~テクノで統一された作品というわけではない。

 プエルトリコのラッパー、ヴィラーノ・アンティラーノを迎えた“All That”は、ケヴィン・リトルのソカ・ヒット“Turn Me On”をサンプリングしたクールなラップソング。“Purple Horizon”はアンドリュー・ウェザーオールを思わせるアシッディーなダウンテンポだ。“Seoulsi Peggygou”は韓国の伝統音楽とジャングルを融合させており、彼女の超初期曲“Hungboo”をアップデートした趣もある。本作はペギーの現時点での集大成と言えるはずだ。

 最終曲の“1+1=11”は、トランシーなシンセと鍵盤がユーフォリアを喚起するビッグルームなナンバー。近年のトランス~プログレッシヴ・ハウス再評価に共振しつつ、あくまでキックは軽やかさを残している点に、彼女の美学が窺えよう。人と人の繋がりが孕んでいる無限の可能性を表したこの曲は、〈私+あなた〉の対話からスタートしたアルバムに、美しいフィナーレを作り出している。

 今夏には2018年以来となる〈フジロック〉への出演を控えているペギー。苗場で『I Hear You』が、どのように聞こえてくるのか。7月が待ちきれない。

左から、ペギー・グーの2019年のミックスCD『DJ-Kicks』(!K7)、楽曲提供した2023年のコンピ『20 Years Of Phonica』(Phonica)

レニー・クラヴィッツのニュー・アルバム『Blue Electric Light』(Roxie/BMG Rights)