〈CD再生委員会〉を名乗っていますが、そもそも私も、ダンスミュージックの作り手で、DJの端くれでございます。今回は、主にテクノやハウスといった四つ打ちのダンスミュージックを中心に、クラブカルチャーにおけるCDという視点で振り返ってみましょう。ふりかえる……事もたまにある……♪

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忘れられしミックスCDは雑誌のようだった

現在は〈Boiler Room〉といったYouTubeチャンネルや、Mixcloudなどのサービスが主流であるDJミックスですが、90~2000年代にはミックスCDと呼ばれる形態が盛り上がっておりました。ロンドンのクラブ雑誌「Mixmag」が、ワープやニュー・グルーヴ、MAJOR FORCEといった当時注目のレーベルを紹介するCDを付録として付けたものが、その最初期の一枚(『Technics Present The 1990 MixMag』)。雑誌の付録がその始原であったように、ミックスCDとは、新ジャンルを定義し、クラブという現場をダイジェスト的に紹介する、〈雑誌〉のような存在だったと言えるでしょう。

そんなミックスCDの草分けがドイツの!K7による『DJ-Kicks』シリーズ。カール・クレイグ、ムーディーマン、フォー・テット、ペギー・グー……1995年から現在まで続くこのシリーズの、過去のラインナップを眺めると、まさに雑誌のバックナンバーのように、DJカルチャーの変遷が感じられるメンツになっています。

VARIOUS ARTISTS 『DJ-Kicks: Moodymann』 !K7(2016)

PEGGY GOU 『DJ-Kicks: Peggy Gou』 !K7(2019)

ロンドンのクラブ、ファブリックがリリースする人気シリーズ『fabric』ミックスも影響力があります。2001年にスタートし、現在は『fabric presents』と名前をマイナーチェンジし、近年ではオーヴァーモノやサルートといったアーティストが参加。『DJ-Kicks』よりややアンダーグラウンド、シブいDJが集っています。

OVERMONO 『fabric presents Overmono』 fabric(2021)

SALUTE 『fabric presents salute』 fabric(2025)

同じく2001年から現在も続く老舗シリーズが『Late Night Tales』。DJ/アーティストによるチルアウトな選曲に特化した、夜のミックス。近年ではクルアンビンによる選曲で、柳ジョージ“祭ばやしが聞こえる”が収録されたことが話題になりました。

KHRUANGBIN 『Late Night Tales: Khruangbin』 Late Night Tales/BEAT(2020)

上記3シリーズはいずれも硬派なサウンドですが、よりチャラくてポップなハウスやディスコが聴きたいなら『Hedkandi』や『Defected』シリーズ、ディミトリ・フロム・パリの『Playboy Mansion』3部作なんかも、日本でも人気でしたね。

70分弱というCDの収録時間は、プロフェッショナルなDJの持ち時間の平均値からすると、やや短いものです。また、楽曲の収録のためのライセンス取得の煩雑さ(どれか1曲でも収録できなくなれば、その曲以降の展開をまた組み直さなければなりません)を考えれば、現在のように、DJミックスはYouTubeチャンネル~ストリーミングが主流化するのが必然であり、今後、ミックスCDが復活する可能性は極めて低い……が、その〈忘れられたフォーマット〉故に、今、堀り甲斐があるというもの。90年代のファッション誌がじわじわと古書としての価値を上げているように、過去のミックスCDに、今、注目しても面白いことでしょう。

 

『AI』『Café Del Mar』『Kitsuné』……トレンドを形作ったコンピCD

ミックス以外では、コンピレーションCDも重要です。エイフェックス・ツインやダフト・パンクのようなアーティストが認知されたのは〈アルバム〉で作品を作ったから、すなわちロック史観的な批評の俎上やメディアに乗るためには〈アルバム〉というフォーマットで曲をまとめる必要がある訳ですが、クラブミュージックの現場は12インチ等の〈シングル〉が中心の世界。それらを〈アルバム〉のようにまとめてストーリーを作るのがDJの役目とも言えましょう。という訳で、ダンスミュージックにおけるジャンルやトレンドを決定づけた楽曲を知るには、アルバムよりもコンピレーションCDの方が適しているのかも知れません。

例えば名門ワープ・レコードによる『Artificial Intelligence』は、ソファでくつろぐロボットのジャケットと〈Electronic Listening Music From Warp〉という副題が示すように〈家で落ち着いて聴くテクノ〉というコンセプトを提示し、後に〈IDM(Intelligent Dance Music)〉と呼ばれるテクノの原点となりました。優れたコンピレーションは単なる寄せ集めではなく、新ジャンルのマニフェストとなる好例と言えましょう。

VARIOUS ARTISTS 『Artificial Intelligence』 Warp(1992)

世界中のパリピ(死語?)の聖地、スペイン・イビサ島の老舗カフェ〈デル・マー〉のレジデントDJであったホセ・パディーヤが選曲した、店の名前を冠したコンピレーションが『Café Del Mar』シリーズ。海面に沈む夕陽が美しいロケーションであるカフェ・デル・マーにふさわしく、なおかつクラブミュージックの文脈に則ったチルアウトミュージックが収録されています。ホセ・パディーヤは2020年に亡くなりましたが『Café Del Mar』はその後も続き、2025年には45周年記念の豪華盤もリリースされています。

VARIOUS ARTISTS 『Café Del Mar 45th Anniversary』 Café Del Mar(2025)

2000年代のエレクトロクラッシュブームを象徴する『Kitsuné Maison Compilation』は、パリの人気ブランド・メゾン キツネが手掛けたシリーズで、そのファッショナブルなイメージも手伝って日本でもヒットしました。当時、美容師 or ショップ店員 or 専門学校生で「今度、友達のショーでDJやるんす~」というような若者らがこぞって買っていました。ネオンカラーのパーカー、カラフル過ぎるレギンス、サルエルパンツ。Y2Kブームの次はこういうのがまた来るんでしょうか。

デヴィッド・トゥープによる〈誇張しすぎたアンビエント〉コンピ『Ocean Of Sound』、マニアックなニューウェーブディスコの名曲をディグった『Disco Not Disco』シリーズなどなど、中古盤屋で見つけたら絶対に手に取るべき好コンピはいろいろありますが、ひとまずこんな所で。

 

往年のCDJがクラブの光景を変えた

CDとクラブということで、CDJの話もしましょう。CDJは文字通り、CDでDJをするための機材。その最初期の機種が、1994年に発売されたPioneer CDJ-50(これ以前に発売されたCDJ-300という機種もあるようですが、なぜか公式サイトでもあまり触れられておらず幻の存在……)。

過去のデラさんのインタビューにもある通り、DJ連中からは当初「DJやるならレコードじゃなきゃ! キュワキョワッ(スクラッチ音)」といった反発も多かったCDJ。しかし、まだレコードになっていないデモや未発表曲もCD-Rに焼けばクラブでプレイできる、レコードに比べて荷物が大幅に減るし針もいらない、といった利点がCDJにはありました。じわじわと、レコードと併用する形で、DJもCDJを使い始めるように。

スクラッチ機能も改善された2001年発売のCDJ-1000あたりから、CDJもまた〈ツール〉として認められるようになりました。DJがブースで、レコードバックを探るのではなく、バインダー型のCD収納ケースをパラパラめくる光景が広がります。

エレクトロクラッシュブームの立役者ラリー・ティーの2008年のDJの様子。CDJ-800MK2の下、手元にCD収納ケースがありますね

しかし、さらに技術は進み、現代のDJはUSBに収めたmp3/wavといったデータで選曲するのが主流になりました。最新機であるCDJ-3000は、もはやCDの読み取り機能自体が削減されております……じゃあCDJじゃないじゃん!

ちなみに、圧倒的なシェアでDJ機材の帝王として君臨しているPioneer DJ(現AlphaTheta)ですが、CDJ黎明期にはDENON、Technics、Vestaxといったさまざまなメーカーが、CDJを発売しており、群雄割拠の時代がありました。今でも老舗のDJバーや地方の小箱のブース下で、DZ-1200やDN-S3500といった往年の名機が、ひっそりと埃を被っている所に出くわすことがあり、平家の落人の足跡を見るようで、涙を誘います。ツインCDJとかデュアルCDJとか呼ばれる、簡易ミキサーと2台のCDJが連結している一体型もありましたな。

ということで、今回のテーマはCDとクラブミュージックでございましたが、日本のDJやアーティストについてはまったく触れてません! なので、次回はJ-CLUB編でございます。ではでは。

 


PROFILE: Kotetsu Shoichiro

ミュージシャン(トラックメイカー/DJ)。90年生まれ、香川県出身。ダンスミュージック全般を手がけ、ラッパーやゲーム音楽、CMなどに楽曲提供の実績多数。2021年にはラッパー・T-STONEへの提供曲“Let’s Get Eat”がBillboard JAPANのTikTok Weekly Top 20で1位を獲得。また2022年にはtofubeatsのアルバム『REFLECTION』収録の“Vibration feat. Kotetsu Shoichiro”へラップで客演し話題を呼んだ。ライター/インタビュアーとしてはミュージック・マガジン、Quick Japan、CINRA、関西ソーカルなど数々の媒体に寄稿。ほか、さとうもか“Lukewarm”“Loop”をはじめ他アーティストのMVなど映像/アニメーションの編集も手がけるなどジャンル/形式に囚われない幅広いスタイルで活動をおこなっている。
オフィシャルサイト:https://kotetsu-shoichiro.com/
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