Number_i史上もっとも実験的な“OK Complex”
2曲目の“OK Complex”も作詞がPecoriで作編曲がMONJOEという組み合わせだが、こちらは岸がプロデュース。
全体的にジャージークラブのビートパターンで統一された曲だが、グリッチノイズの多用や過剰なエディットなどから、1990~2000年代のIDMやエレクトロニカ、はたまた2000年代末~2010年代初頭のポストダブステップに近い音楽性だ。あるいは、新作『BRAT』を最近リリースしたチャーリー・XCXのようなハイパーポップだろうか。
また、近年のアルカの実験的かつポップな電子音楽も想起した。J-POP的な要素の希薄さ、実験度合いの高さから、Number_iの作品の中でもっともエクスペリメンタルな曲かもしれない。そういった点から、個人的にかなりお気に入りの一曲だ。
中盤、〈My Journey Non Stop/Everythingの上にBeat/君とのGame〉と歌うパートでの岸は、まさに〈かぶき者〉。どこからあんな声が出るのだろうか……? “FUJI”と同じくトラヴィス・スコットへのオマージュも感じつつ、神宮寺の清廉な歌声とのコントラストもおもしろい。
平野が歌う〈足りない君の重さ二の腕/忘れられないのは俺だけ?〉のところでは、バックの音がすべて空気の中に溶け出してしまったかのような、ユーフォリックなアンビエント的な展開を迎えて驚いた。
PUNPEE作、出発点を刻んだヒップホップ“SQUARE_ONE”
『No.O -ring-』のリリース直後、既存のファンの以外からも特に注目されたのが“SQUARE_ONE”だろう。神宮寺がプロデュースしたこの曲は、作詞と作編曲のすべてをPUNPEEが手がけたことが大きな話題になった。
まずは発起人である神宮寺が〈諸説この始まりにはあったよな〉とバースを蹴る。PUNPEEのファンはもうここで、〈あ~、PUNPEEっぽい!〉と悶えるはず。キレのいいリズミカルなフロウ、言葉のデリバリー、そしてコーラスのメロディなど、どこをどう切り取ってもP印。歌もPUNPEEの歌い方にかなり寄せていて、PUNPEEの大ファンであろう神宮寺の愛が存分に伝わってくる(Number_iファンにも、ぜひPUNPEE作品にハマってほしいところ)。
コーラス終わりで激しく暴れる90s風ブレイクビートを乗りこなす岸は、また独自の個性を発揮(最後の叫びが強烈すぎる)。〈太子、諭吉ときて紫耀でしょ/紙より高級寿司食うGOAT/たまにゃ岸くん奢りなさい〉という自己言及的なリリックを平野がラップする部分には、思わずニヤリとさせられる。
曲名の〈square one〉という英語は、すごろくのふりだし、出発点のこと。王者に君臨したことを誇示しつつ、まだ走りはじめたばかりであることも忘れない。平野がラップする〈歩いた場所しか道になんないな〉も、強気でありながらも謙虚かつ実直な宣言でかっこいい。
トレンドの80sシンセポップに挑んだ“No-Yes”
岸がプロデュース、PecoriとMONJOEが作詞作曲、MONJOEとFIVE NEW OLDのSHUNが編曲した“No-Yes”は、これまでのNumber_iの作品になかった新鮮な一曲だ。
タイトルはオフコースの“Yes-No”(1980年)を連想させるが、〈ほぼ失恋ソング〉的な歌詞は少々関係しているかもしれない?
音楽的には、ストレートな80s風シンセポップである。ザ・ウィークエンドの“Blinding Lights”(2019年)のヒットをきっかけに流行した、アーハの“Take On Me”(1984年)スタイルの曲だと言えよう。2022年のハリー・スタイルズによるヒット曲“As It Was”も同様だが、直線的なビートと、煌びやかな音色のシンセサイザーが反復するシンプルで記憶に焼きつくメロディの組み合わせは、“No-Yes”でも踏襲されている。
2番のバースで3人がラップするところがなかなかおもしろくて、岸は高速フロウを披露している。神宮寺が〈内心まだ思い出すんだ〉と歌い終えたところに、岸がまたもトラヴィス・スコット風のアドリブをかましているのが印象的だ(が、なんと言っているのか聞き取れなくて、ちょっと笑える)。