東京発ロック・バンドの音楽が、アジアの若者たちのサウンドトラックに――
時代から目を背けない4人は、平凡な日々を色鮮やかな歌と演奏で祝福する!

何をやってもアリ

 Cody・Lee(李)がメジャーからのセカンド・アルバム『最後の初恋』を完成させた。2018年に大学の友人同士で結成され、その後幾度かのメンバー・チェンジを経て、2022年にメジャー・デビュー。彼らの音楽から強く感じられるのは、90年代後半から2000年代前半の空気だ。メンバーはまだ全員20代半ばながら、ギターの繊細な絡みと日本語詞の組み合わせはくるりやフジファブリック、ラップ/ポエトリーの多用はTOKYO No.1 SOUL SETやクラムボンからの影響を感じさせ、お笑い芸人を招いてイヴェントを開催したりと、その雑多なカルチャー感も〈サブカル〉という言葉が機能していた時代に通じるものがある。

 「90年代とか2000年代の音楽に心地良さを感じているので、そういうルーツをちゃんと感じてもらえるのは嬉しいです。全然リアルタイムではないんですけど、学生時代は〈みんなが聴いてるものは聴きたくない〉みたいなメンタリティーも持っていました。あと僕は岩手出身なんですけど、あの時代のちょっと解像度の低い感じが生み出す懐かしさみたいなものが、田舎出身の自分には心地良かったんだと思います」(高橋響、ヴォーカル/ギター)。

Cody・Lee(李) 『最後の初恋』 キューン(2024)

 代表曲“我愛你”のMVは台湾やアメリカを中心に世界中で話題を呼び、現在は1000万回再生を突破。さらにはラスベガス在住の韓国系ラッパー兼プロデューサーの1NONLYに“我愛你”がサンプリングされたり、88risingのメディアでフックアップされたりと知名度を広げ、近年は海外でのライヴも精力的に行なっている。アジアのなかでも特に結び付きが強いのが台湾で、新作にも収録された“烏托邦”は台湾の映像作家・劉立がMVの監督を務め、オール海外スタッフでの撮影が行われた。

 「急に海外の人に聴いてもらえるようになった直接的な理由はいまだにわからないんですけど、歌詞に世界の地名がたくさん出てくるからコロナ禍でのファストトラベル感があったり、日本のバンドなのにサムネイルやバンド名が中華っぽくて、いい意味での違和感があったり、ヴィジュアルもジェンダーレスな雰囲気だったりで、クリックしたくなる要素がたくさんあったのかもしれません。“烏托邦”は監督の作品からも影響を受けてサウンドメイクしたので、〈映像も含めて一つの作品〉みたいな捉え方。ベースのニシマ(ケイ)さんがもともと好きだったNo Party For Cao Dongっていう台湾のバンドのビデオも彼が撮ってるんですけど、ちょっとダークな雰囲気があって、照明がギラギラしていて、トリップ体験というか、浮遊感をすごく感じた。それでアレンジにもダブっぽいセクションを入れたんです」(高橋)。

 2023年9月に約3年半をメンバーとして過ごしたヴォーカリストの尾崎リノが卒業。男女ツイン・ヴォーカルはこのバンドのトレードマークでもあっただけに、大きな出来事だったのは間違いないが、新作ではこのピンチをチャンスとして捉え、音楽的な自由度の高まりへと繋げている(なお、現在のライヴにはサポートとして、過去にバンドのMVに出演した中尾有伽やシンガー・ソングライターの東風あんなが参加)。

 「ツイン・ヴォーカルは武器でもありつつ、潜在的な縛りにも繋がっていて。今回よりフラットに音楽を作れるようになったので、そこはメリットだなと」(高橋)。

 「個人的に、弾けるポジションがすごく増えて、そのぶんプレイの幅も広がったと思います。〈埋めなきゃ〉みたいな感覚があったわけではないんですけど、自然とサビをハイポジで弾くようになった気はしますね」(力毅、ギター)。

 「今回のアルバムは何をやってもアリになった気がします。“ストロベリーエンジェル ~Don’t Say Goodbye~”は音を詰めに詰めてるかと思いきや、サビで急にドラムとベースだけになる。いままでだったら〈せめてアコギくらいは入れておこう〉となってたと思うんですよね」(ニシマケイ、ベース)。