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90年代に掘ったレコード、サブスクで発見した邦楽

――王道もあれば隠れた名曲もある。その点は個人史の反映でもあって、80年代に選ばれた楽曲にそれがもっともあらわれていると思うのですが、80年代末以降、ミュージシャンとして活動されるようになってから音楽環境の変化はありましたか。

「20代(1990年代)はレコードを買えるようになったので、とにかくレコードを買っていました」

――そのころに買って印象に残っているものはありますか。

「それまではあらゆる年代のいいとされているものをひと通り聴く感じだったんですけど、ブラックミュージックをあまり聴いていなかったので、そこらへんから意識的に聴くようになりました。あとはミニマルミュージックとかモンドっぽいものも、20代半ばごろから聴いていったという感じです」

――マウス・オン・マーズの“Stereomission”(1995年)などは当時の楽曲ですね。

「この曲はすごい衝撃だった」

――ちょっとCorneliusっぽいですよね。

「〈みなさま〉とか〈すなわち〉とか、ちょっと歪んだ日本語のナレーションをつかった曲でAIを先取りした感じがあるんだよね(笑)。

90年代、20代のころは、同時代の音楽を聴きながら、並行して日本の昔のロックとか、知らないものを聴いてみたいと思っていた時期ですね。

もちろんサブスク時代になってから昔のことを掘ったりとかして見つけたみたいなのもけっこうありますよ。サブスクはなんでもあるからさ、気になって聴きはじめたらハマって1時間くらい聴いちゃったりすることもあります。日本のフォークとかあまり知らなかったんですけど、吐痙唾舐汰伽藍沙箱(とけだしたがらすばこ)や西岡たかしさんなんかは新たに発見しました。フォークル(ザ・フォーク・クルセダーズ)とかは知っていたけど、あんなテープコラージュをやっているフォークがあったことも90年代は知らなかったからね。

吐痙唾舐汰伽藍沙箱 『溶け出したガラス箱』 URC(1970)

じっさい手に入るものも(1990年代は)あまりなかったりしたじゃないですか。それがサブスクになると、そういうものがどんどん出てきて、金延(幸子)さんや愚とか、いろいろおもしろくなって関西のフォークに一瞬ハマっていました。金延さんは時期的にも女性シンガーソングライターとして相当早かったと思うし、さっさと辞めてアメリカに行っちゃって、そうとうかっこいいですよ。はっぴいえんどはすごく語られていてなんとなく知っていても、関西の金延さんまわりの人たちの話は目にする機会は少ないじゃないですか。ああいうアシッドフォークのシーン、はっぴいえんどとは別の世界がすぐそこにあった。

金延幸子 『み空』 URC(1972)

そういう発掘ものがサブスクにはあって、いま発見しているところです。中国のロックとか、アジアのいろんな国の音楽もそうですよね。ドラゴンズとかね。キリないですよ」

――ドラゴンズはサブスクにはないと思いますよ(笑)。とはいえそれらを伝聞ではなく、じっさいに聴くことができるのはこの時代の特権かもしれないですね。もし1990年代にサブスクがあったら小山田さんはどうしていたと思います?

「パソコンの前から動かないと思う。ひきこもりになっていたと思う(笑)」

――他方で、小山田さんのプレイリストということで興味をもって聴いて、ここから発見することも多いと思うんですね。

「世界のどこかに誰かのプレイリストがあると便利ですよね。サブスクは海みたいなものだから見つけるのが難しいんですよね」

 

YMOの3人を温故知新

――日本の昔の音楽で発見があったとのことでしたが、日本だと友人や知人の方の作品もどうしても入ってきます。たとえばサディスティック・ミカ・バンドの“墨絵の国へ”はCorneliusのツアーでも客入れで使用されていました。

「“タイムマシーンにおねがい”とかもふつうに好きなんですが、この曲はいま聴くとぴったりくる感じがすごくするんですね。ちょっとアンビエント的にも聴けるし、(高橋)幸宏さんが語りなのもなんかいいんですよね。

ミカ・バンドで幸宏さんの声はほとんど聴けないけど、この曲はがっつり聴けていいなと思うんですね。語り、ナレーションのレコーディングの仕方もちょっと面白いですよね」

――幸宏さんのソロでは“回想”をとりあげています。82年の『WHAT, ME WORRY? ボク、大丈夫!!』の収録曲です。

「作曲は坂本さんですがいい曲ですよね。これはもうストレートに選びました。大好き」

高橋幸宏 『WHAT, ME WORRY?』 YEN(1982)

――そしてサディスティック・ミカ・バンドの下の欄の坂本龍一さんの楽曲では『out of noise』の“hibari”を選ばれています。2009年ですから比較的新しい楽曲ですね。

「坂本さんもたくさんあるのでなかなか選べないんですけど、この曲も無限に聴ける感じというか、いつ聴いても大丈夫だし、永遠につづいてもいやじゃないということですよね」

坂本龍一 『out of noise』 commmons(2009)

――Corneliusの新作『Ethereal Essence』では坂本さんの“Thatness and Thereness”のカバーを収録されていますが、教授に対する追悼の意味合いでしょうか。

「楽曲自体は亡くなる前の坂本さんのトリビュートに収録したものなんですが、今回アルバムにも合うなと思ったんですね。オマージュ的な意味合いも多少はありますけど、『Ethereal Essence』はいろんな機会に発表した楽曲を集めたアルバムなので、その点でも主旨に合っているというか」

坂本龍一 『A Tribute To Ryuichi Sakamoto - To The Moon And Back』 commmons(2023)

――そして細野さんは『omni Sight Seeing』(1989年)から“KORENDOR”でした。

「『Ethereal Essence』も、この時代の細野さんの感じというか、『COINCIDENTAL MUSIC』(1985年)という細野さんのCM音楽を集めたアルバムがあるんですが、ああいう感じにしたいとも思っていました。今回の僕のアルバムにも、企業に提供した楽曲が混じっていたり、いろんな経緯で発表したものをひとつのアルバムとしてまとめるようなイメージがありました」

細野晴臣 『omni Sight Seeing』 エピック/ソニー(1989)

細野晴臣 『COINCIDENTAL MUSIC』 MONAD/テイチク(1985)