シンガーソングライターとしての力を発揮した歌ものからテクノセッションまで

シングル“amaranthus”のリリースを皮切りに、着々と注目と評価を高めてきたシンガーソングライター、北村蕗。最新EP『500mm』をきっかけにさらに大きな注目を集めている北村が、自身初となる単独でのショーケースライブを開催した。2024年6月29日、会場は恵比寿BATICA。ソールドアウトとなったこともあり、2階のフロアは満員。ステージ上にはラップトップやコントローラー、キーボードなどがぎゅっと並べられ、主役の登場を待っている。

BGMが途切れ、メトロノームのクリック音が響くなか、北村が姿をあらわす。『500mm』の冒頭をかざる“ic”をあいさつがわりに、いまのモードに再構成された弾き語り時代からのレパートリー“天使”が鮮烈な印象を残す。エネルギッシュに弾き、歌うシンガーソングライターとしての地肩をのっけから感じさせる。勢いそのまま、今年リリースしたシングルのひとつ“Secret”へ。レイドバックしたビートと歌唱で会場の雰囲気をつかみながら、エレクトリックピアノのソロで丁寧に次の曲へと移行していく。そのまま、ふたたび弾き語り時代からのレパートリーである“uta”を、ルーパーを駆使したアレンジでフレッシュに歌い上げた。

かんたんなMCを挟んで披露された“kouzui”から、キーボードからエレキギターに持ち替えて歌い上げられた“あさやけ”。これらも“amaranthus”以前からのレパートリーだ。響きの豊かな歌声に満たされたかと思うと、そのすぐ後にはリズムマシンのElektron Model:CyclesとアナログシンセのArturia MiniBruteを駆使したセッションタイムに突入。メロディやハーモニーは最小限に、インストのパフォーマンスが10分以上にわたって続く。シンプルなシーケンス(おそらくアルペジエーター)の反復に、音色のモジュレーションとサウンドの抜き差しでストイックに展開をつくっていく。めちゃくちゃいいけどここから一体どうなるのだろう……と手に汗を握っていると、昨年リリースのシングル“IMIW”へシームレスに移行。rei harakamiを思わせる遊び心あふれるポリリズムにメロディアスなフレーズがミニマルに重なり、北村の熱唱も炸裂。会場全体が凄まじいカタルシスに包まれた。

 

濃密な弾き語りを経てダンスミュージックへ

MCを区切りに、次は弾き語りをフィーチャーしたパートに。エレクトロニックなサウンドから離れたストレートなパフォーマンスは、ある意味北村の本懐というべきだろう。とはいえ、アコースティックなパフォーマンスでクールダウンというよりは、むしろ感情を揺さぶるボーカルの魅力と、身体を揺らす演奏からあふれるグルーヴに浸る濃密な時間でもあった。ちなみに、ここで披露された“re:夕方”、“栞”、“tomadoi”のうち、後二者は未リリースだ。

そして、最後のパートでは、“ignorant bird”をはじめとしたダンストラックをノンストップで披露。同曲につづいて『500mm』から“lurk”、“eclipse”、“burn”をつづけて演奏したあと、8分の7拍子のトリッキーな“Solution”を挟んで、EPのラストを飾る“blue sight”へ。“eclipse”ではフルートも登場し、『500mm』につまったダンスミュージックへの関心がサウンドとなって存分に鳴り響いた。 

アンコールでは、“amaranthus”をシンプルなアレンジで披露し、最後に“空耳な気がする(?)”の弾き語りでパフォーマンスを締めくくった。