噛めば噛むほど味わいが増すユニークなフォーキーデュオの入門盤

 令和のミヤコ蝶々・南都雄二か、はたまたミスワカナ・玉松一郎か。熟練漫才師のような絶妙な間合いの掛け合いが魅力の音楽デュオ、ハンバート ハンバートのことだ。夫婦の何気ない会話がそのまんま歌のリズムになっているようななんとも不思議な親密さ。そんな彼らのユニークさは、NHK連続テレビ小説「ばけばけ」の主題歌に使われ、いまや日本の朝のチャイムとなっている“笑ったり転んだり”においても存分に発揮されているだろう。

 生活の手ざわりや季節の移ろい、人と人の距離感などをうまく掬い上げながら、誰しもの心の中にある風景として響かせる能力というか、何気ない日常をみごと音楽にすり替えてしまう技芸は、そんじょそこらの歌手には到底真似できないもの。でもってやっぱり素晴らしいと思うのは、佐野遊穂の柔らかくて澄んだ声と、佐藤良成の土臭くて乾いた声が織りなす独特なハーモニーだ。ふたつの糸がけっして絡み合うことなくそれぞれ自律性を持ちながらすっと伸びていくような印象を与えるそれは、ひとつの曲の上でそれぞれの声が独自の軌道を描いているような響きを放ち、いつだって音と感情と物語の間に小さな空白をそっと残してくれる。

ハンバート ハンバート 『ハンバート入門』 SPACE SHOWER(2025)

 そんなハンバート ハンバート音楽ならではの特色を改めて理解する機会を与えてくれるベスト・アルバム『ハンバート入門』がリリースされる。新曲“笑ったり転んだり”をはじめとして、噛めば噛むほど味わいが増す歌の詰め合わせ盤。アーシーなアメリカン・ロックやオーセンティックなカントリー・ミュージック、そしてアイリッシュ・トラッドなどのエッセンスを取り入れながら、どこか懐かしさを醸す日本人好みのフォーキー・サウンドをクリエイトしてきた彼らの20数年間の歴史が一望できる内容となっており、中身の濃さはお墨付き。つねに新作で最高傑作を更新してくる彼らの新しい作品に対する期待をグッと高めてくれる役割を果たしている点でも優れた入門書だと言えるだろう。