世界を信じられない現在のともしびとなるような作品

 約5年ぶりのフルアルバムとなる坂本美雨の『Something True』が実に味わい深い。ポスト・クラシカルやアコースティックを横断するようなサウンド・プロダクションと、崇高さと親密さが共存する詞の世界とのバランスが絶妙なのだ。

坂本美雨 『Something True』 ユニバーサル(2026)

 森山直太朗、伊藤ゴロー、原 摩利彦が数曲ずつプロデュースを担当(トータル・プロデュースは坂本)した本作だが、その録音は2024年12月から行われたという。「伊藤ゴローさんと共演する機会が多くて、ゴローさんが〈美雨ちゃんはライヴの歌声がすごくいいから、その感じをアルバムにできたらいいね〉といってくださって。それが本作をつくり始めるきっかけでした。そんななか、パレスチナ侵攻が2023年秋から激化し、気になって調べてゆくうちに、世界情勢があまりにもひどいと落胆してしまいました。そして、こんな世界でわたしはどんな音楽を作ったらいいんだろう、と初めてに近いぐらい落ち込んでしまって。それで自分は何をすべきかを考える期間が必要でした」。坂本はアルバムの制作期間についてこう説明してくれた。

 「人間ってこんなにも残酷になれるものなのか、とか、そしてそれにノーといえない自分の国など、いろいろと嘆き悲しみました。自分が信じてきた世界が揺らいでしまった。そんな状況で、自分のこころの拠りどころとなる〈本当のこと〉っていったいなんだろうと考えたとき、それは誰かと一緒に演奏しているときに感じる幸せとか、おかえりといいあえるような家族みたいな存在だったりするんじゃないかと改めて思ったんです。だから、本作はそうした〈揺るがないもの〉を探していったアルバムといえます」

 アルバム2曲目の“If I must die”は、ガザの大学教授で詩人のリフアト・アルアライールの詩に曲をつけたもの。「彼は2023年12月のイスラエル空爆で亡くなってしまうのですが、これはその彼が自分の娘に残した詩。メロディをあてたことでずっと歌っていきたいと思える曲になりました」。どうやらこの曲は坂本にとっての〈揺るがないもの〉のひとつとなったようだ。

 「わたしはここ数年で世界への信頼を失い、また身近なところでも喪失感を味わってきましたが、このアルバムが世界中にたくさんいるであろう喪失感を抱えたひとたちのこころの拠りどころや寄り添うもの、慰めになればいいな、と思います。連帯の気持ちとでもいうのでしょうか」

 


LIVE INFORMATION
坂本美雨ワンマンライブ〈Something True〉

2026年9月21日(月・祝)東京・品川 キリスト品川教会 グローリア・チャペル
開場/開演:16:00/17:00
出演:坂本美雨(ヴォーカル)、平井真美子(ピアノ)、徳澤青弦(チェロ)
https://www.miuskmt.com/category/whatsnew/live/