〈お笑い〉と〈音楽〉を軸にした大胆不敵な活躍で、1980年代からテレビの世界を賑わせ続けてきた異色のコンビ、とんねるず。彼らが、2024年11月8日(金)と9日(土)の2日間、東京・日本武道館で〈とんねるず THE LIVE〉を開催する。石橋貴明と木梨憲武が揃ってライブのステージに立つのは、実に29年ぶり。開催決定のアナウンス直後から大きな話題を呼んでいるこのメモリアルなライブで特に注目されるのが、2人による歌のパフォーマンスだ。今回、そんなとんねるずの歌手としての稀有な歩みを、音楽ライターの桑原シローが振り返った。 *Mikiki編集部
コミックソングの趣に変化を生じさせた“一気!”
とんねるずの音楽的変遷をシングル曲中心に振り返ってみたいと思うのだが、まずあらかじめ定義しておきたいこと。それは彼らの楽曲のタイプを大まかに分類すると〈コミック~ノベルティソング〉系と〈オマージュ~リスペクトソング〉系になるということだ。1981年8月にリリースされたデビューシングル“ピョン吉・ロックンロール”(アニメ「新・ど根性ガエル」オープニングテーマ)、1982年7月リリースのセカンドシングル“ヤバシびっちな女(め)デイト・ナイト”、これらは共にれっきとしたコミックソング仕様。ふたりのベタなおちゃらけぶりが亜流のお笑い芸人的で、いかにもそれ風な仕上がりだ。
そんな彼らのコミックソングの趣に変化が生じるのは、1984年12月リリースの3枚目のシングル“一気!”から。この時期、彼らを取り巻く状況がだいぶ変化していて、1983年4月からスタートした「オールナイトフジ」にレギュラー出演し、破天荒な芸風で人気者の仲間入りを果たしていた。この曲は、番組の構成作家のひとりであった秋元康が彼らのブレーンとして関わった第一号的作品であり、とんねるずサイドとしてはこれが実質的なデビュー曲と認識しているようだ(前2曲はあくまでも企画モノとして扱われている)。
さて曲の構成について、いわゆるコミックソングの体裁を取っているものの、当世の若者の風俗や社会倫理を鋭く切り取ってみせた作品という側面も持ち合わせており、ある意味、アイロニカルなメッセージソングと受け取ることも可能だったりする。何にせよ、芸の根幹にたえず同時代性を据えていたとんねるずらしさが溢れたこの曲がしっかりヒットに結びつき、彼らの笑いのノリやリズム感を広く知らしめられたことは大きな成果であった。
演歌に挑んだ“雨の西麻布”で初のベストテンヒット
そして1985年4月から始まった夕方の帯番組「夕やけニャンニャン」に出演、中高生からの支持も集めながら時代の寵児へと昇り詰めていく彼ら。その頃リリースされたのが初のベストテンヒットとなる“雨の西麻布”(1985年)。ここで彼らがアプローチしたのはズバリ演歌で(当時、日本のソウルミュージックにめざめた、という旨の発言をしていた)、いわゆる〈オマージュ系〉の系譜にあたる1曲だと言っていい。ある特定のジャンルやスタイルに着目し、現代的解釈を施したものを提示していく手法がとられた初のシングルで、同系統の“歌謡曲”(1986年)も含めて、シリアスさとおふざけのギリギリのラインを攻めるようなパフォーマンスを展開している。
なお、これらビクター時代の彼らの楽曲の音楽的部分を支えたのが、元・一風堂の見岳章である。“母子家庭のバラード”(1985年)や“わらって下さい”(1986年)など、ビクター時代のアルバムには名バラードが多く収められているという声もよく聞くが、それは彼の貢献度の高さを表している。